![]() |
|
豪雪の大都会・札幌
|
|
早朝羽田発のJAL便が新千歳空港に向けて機首を下げ始めたころ、眼下には苫小牧の臨海工業地帯が広がっていた。一面の雪景色に覆われた北海道の大地は、日本の他の地域とはあまりにも違っていた。なだらかに広がる広大無辺の大地のほとんどが荒れ地や森林になっており、その中に人間や道路が申し訳なさそうにポツンポツンと点在しているのが北海道の風景である。急峻な山々に挟まれた猫の額のような土地に人間と建物がぎっしり詰め込まれている本州の人間が北海道に求めるものは、いつの時代も変らぬ大らかな風景の広がりと開放感である。 その北海道が最も北海道らしくなる季節が冬であろう。何しろ人間が一年の半分を雪や氷と共存しなくてはならない土地なのだから。その冬の北海道(札幌と小樽だけだが)を今回初めて訪れることになった。 今年の北海道は異例の暖冬だそうで、札幌の友人も「全然北海道の冬らしくない」と言っていた。今回の滞在中、札幌周辺の日中の気温は0℃〜マイナス3℃前後を示していた。確かにこの位の「暖かさ」になると雪もボタン雪に近く、感覚的には東京あたりの一番寒い日とそう変わらない。北海道の「正しい」冬というものは粉雪が舞い下り、路面は厚い氷で覆われるのだそうだ。但し街中の積雪の量は大したもので、幹線道路はほとんど全て、除雪された雪が背の高さ以上に積み上がり、一車線分の幅を占めているような状態になる。つまり、ひと冬中、動かない車の列が道路を塞いでいると思っていただければ良い。 大都会・札幌の繁華街ともなると、街全体にロードヒーティングが行われていて、誰でも滑らずに路面を歩けるようになっている。札幌のロードヒーティングは温水パイプをコンクリートの下を通しているのだそうだ。本州の豪雪地帯、たとえば新潟あたりではスプリンクラーで雪を溶かしているそうだが、北海道のように路温が氷点下に下がるような土地では、水を撒いてもすぐツルツルの氷になってしまうので、熱エネルギーで物理的に暖めるしかないのだろう。 この「日本一寒い島・北海道」は、別の意味でいえば日本一暖かい冬に恵まれている土地でもある。よく知られていることだが、冬の北海道の家庭では家自体が耐寒構造になっている上にセントラルヒーティングや床暖房がガンガンに効いていて、半袖一枚で過ごせる位暖かいのである。もちろん、こたつなど不要。東京近郊の私の家では石油ファンヒーターの電源を切ると耐えられない位寒くなるのだが・・・そう言えば新千歳空港のロビーもものすごく暖かかった。また、長く厳しい冬将軍との闘いの疲れを癒すかのように、夜の街が非常に発達している。札幌の繁華街や郊外にも無数の「北酒場」があり、そこにはポカポカと効いた暖房と、暖かい人間同士のふれあいがある。 そんな北海道の人々の冬の楽しみはなんといってもスキー、札幌の近郊には数え切れない位のスキー場があるが、ほとんどがドライブ30分〜1時間以内の距離にある。市民スキー場として親しまれている藻岩山は路面電車の駅から歩いていける距離だし、スキージャンプの国際大会で有名な大倉山や宮の森なども市内からあっけないほど近い。私たちが行った朝里川温泉のスキー場は眼下に石狩湾の大眺望が広がる本格的なスキー場だが、これも30分程度のドライブで到達できる。小中学生の冬休みも本州より10日以上長いと聞くし、これではスキーがうまくなるわけだ。 私はこれまで世界各国を歩いてきたが、豪雪地帯に200万からの人間が住んでいる札幌のような街は見たことがない。恐らく、こんな街は世界広しと言えども他にはないだろう。確かに、札幌と同程度以上に寒い大都会は世界中にゴマンとある、思い付くだけでもモスクワ、ストックホルム、シカゴ、トロント、北京、ソウル・・・しかしこれらの都市の中で札幌ほど大量の雪の降る街はない。世界の地図帳をひもといて見ると、1月の降雪量が100ミリ以上になる豪雪地帯は地球上でもごく限られており、スカンジナビア半島西岸、北米大陸の西岸(バンクーバー以北)、北日本の西岸、ニュージーランドの西岸、南米大陸最南端(パタゴニア)くらいしかない。これらの地域のなかで、地下鉄が通り、きらびやかな繁華街を持ち、人々が快適で整然とした近代生活を送れるような大都市は札幌以外にない。来月から始まる「札幌雪まつり」には世界各国から人が集まるそうだが、世界中の人々は恐らく人類社会に始まって以来の、「豪雪の大都会」サッポロを驚嘆の眼で見ているのかもしれない。 |
|||||||||
|
|||||||||