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つくばエクスプレスと東葛の未来-前編 (2004/2/2) |
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我が郷里に、第二の鉄道がやってくる・・・ 私が生まれ育った所は、千葉県の柏市です。この柏を中心として、松戸市、我孫子市、流山市、野田市などを含む千葉県北西部は、東葛(とうかつ)地域と呼ばれます。映画「男はつらいよ」(寅さん)の舞台となった葛飾柴又は東京の東はずれにありますが、そこよりさらに東、千葉県の領域が「東葛」(葛飾の東)です。英語でいえば、「イーストエンド・サバーブ・オブ・トーキョー」といったところでしょうか。 その東葛地域の真ん中を縦断するかたちで、JR常磐線が通っています。この常磐線によって、東葛は昭和30年代より東京の郊外住宅地として開発され、大きく変貌しました。人口も増えに増え、現在では東葛5市あわせて人口130万人、なんと福岡市と匹敵する大都市になっています。これほどの大人口があるのに、東京直結の鉄道が常磐線しかないため、朝夕の通勤ラッシュ時の混雑は首都圏でも最も過酷と言われています(私は6年間サラリーマンやって、この殺人的通勤ラッシュを生き延びました。だからもう何があっても平気♪)。その混雑を緩和するために、地元では長らく、第二の通勤鉄道の建設が待ち望まれてきました。 その願いが、来年の秋ようやく現実のものとなります。東葛の夢を乗せて登場する待望の新鉄道、その名はつくばエクスプレス(以下Txと略)。Txは東京・秋葉原と茨城県つくば研究学園都市を結ぶ、全長58.5kmの通勤鉄道で、その経路は常磐線と平行するかたちで、東葛地域の中部、北部を縦貫します。この新鉄道の開通によって、これまで都内へのアクセスが不便だった流山市や柏市北部、加えて埼玉県八潮市や三郷市、茨城県守谷市といった地域の利便性が飛躍的に向上します。Tx沿線は、一都三県をまたにかけ、計画人口数十万人規模に及ぶ21世紀最初の大規模都市開発の舞台として、注目を浴びつつあります。 私はTx開業をきっかけとして、これまで首都圏ではマイナーな存在だった我が東葛地域をもっとメジャーにしたい。そのためにも一人でも多くの人が東葛地域を知り、興味を持って欲しい。あわよくば東葛のファンになって欲しい・・・そんな願いを込めて、この文章を書きました。なにぶん首都圏が舞台の話ですので、それ以外の地域に住む人には分かりにくい内容かもしれませんが、でも街づくりとか、市町村合併とか、高齢化対策など全国共通の課題にも関連させつつ、「誰が読んでもためになる」文章にしていきたいと思います。 我が東葛地域の恥をさらすようで心苦しいんですが、某鉄道会社が首都圏で行ったアンケート調査によれば、東京都心から放射状に伸びる鉄道のなかで、我が常磐線は住みたくない沿線ワースト1、なんだそうです。 東京住みたい沿線ベスト5 東京住みたくない沿線ワースト5 首都圏以外の方にはピンとこないでしょうが、 東京の沿線イメージというのは、完全に「西高東低」、「南高北低」の図式になっています。住みたい沿線ベスト5に入っているのは、すべて都心から西か南(多摩、神奈川方面)へ向かう路線で、ワースト5は全て東か北(千葉、埼玉方面)へ向かう路線です。特に常磐線、京成線、東武伊勢崎線、総武線などは、いつの時点で調査をやっても、「住みたくない沿線」の常連です。もっとも、最近は常磐線と京成線の中間に北総開発鉄道という新線ができ、我が常磐線もついにイメージ最悪沿線の座を明け渡した、との噂もあります(でもビリから2番目・・・)。 なぜ、常磐線のイメージはここまで悪いのか・・・ここで少し、常磐線を擁護させていただくと、純粋に東京通勤用の近郊鉄道と、長距離列車の常磐線を同じ土俵で比較してしまっては、常磐線がちょっと可哀想です。例えば、住みたい沿線1位の東急東横線は終点が横浜市内(東京から30km)、5位の京王線は八王子や橋本(同40km)止まりですから、これらは純粋に都内に通勤・通学する人々のための電車です。これが東海道線や宇都宮線になりますと熱海行きとか小金井行きなど、遠方に行く電車もありますが、それでも東京からせいぜい100km圏のこと。ところが常磐線の場合、茨城県の北端に近い高萩(東京から170km)行きとか、さらに北方、福島県の四ツ倉や久ノ浜(同230km)まで行く電車がゴロゴロあるのです。仮に始発・上野駅から久ノ浜までぶっ通しで乗ると、4時間もかかるんです。関東を突き抜けて東北地方まで行っちゃう通勤列車、すごいでしょう・・・ したがって常磐線の車内には、東京に通勤するサラリーマンと、普段東京に全く縁のない農村部(茨城北部や福島)の人が共存しています。両者の間には、電車内での過ごし方や文化に大きな違いがあります。農村部の人は、車内で平気でモノを食べたり、酒盛りを始めたりするものですが、都会のサラリーマンは普通、そんなことしませんよね。ところが常磐線では、何と農村部の文化がサラリーマンにも浸透し、例えば茨城県牛久とか龍ヶ崎に住むサラリーマンが、帰りの電車でワイワイ酒盛りを始めて、満員電車にサキイカの臭いがプンプン、みたいな現象も起こるのです。また、酒飲みのオヤジがたくさん乗ってる電車ですから、車内の吐瀉物が、はっきり言って多い!特にすごいのが上野20:44発の土浦行き下り、これは別名「お好み焼き電車」と呼ばれ、恐れられています。私の友人も以前、松戸駅に滑り込む車内で、近くにいたサラリーマンの背広にゲロをぶっかけた・・・こうした、首都圏のなかでは異色な(地方色豊かすぎる)「常磐線文化」が、沿線イメージを垢抜けないものにしている、という面も否定できません(注)。 (注)一言補足しますと、常磐線快速には取手止まりの「青電」と、それ以遠まで行く「白電」があります。サラリーマンの酒盛りが盛んなのは白電の方で、青電は普通の通勤列車のイメージに近いです。 私は、こういう環境を当たり前のものとして育ちました。まだ常磐線しか知らなかった純真な少年時代、私は、首都圏の電車はみんな常磐線と似たようなものだと思っていました。でも、それが甘かった・・・私の行った高校は都内、それも東横沿線というハイソでお上品なエリアにあって、私は柏から長距離通学していたのですが、そこで多くのクラスメートから聞いた、常磐線やその沿線地域に関する酷評の数々。もう耳を覆いたくなるほど、ボロクソにイメージ悪いんです。あの辺はガラ悪いとか、工場がたくさんあって煙モクモクのイメージがあるとか、街が汚らしいとか、もうそんなんばかり・・・ そんなにひどい言われ方をしたら、常磐線が可哀想になって、必死に弁護したくなるものです。「常磐線って、皆が言うほど悪くないんだよ。住宅街で工場は少ないし、空気もそんなに悪くないし、特に我孫子は環境いいんだよ。それに、東京ではあまり知られていないけど、柏の駅前はすごく発展しているんだ。大都会なんだ」・・・折りしも、世界史の授業で古代中東地域の歴史を習った時、イスファハーンは世界の半分という言葉が出てきたので、私はそれにあやかって、柏は新宿の半分、という言葉までつくり、我が沿線のイメージアップにつとめました。でもそのたびに、「所詮千葉だろ?」と一蹴されるのがオチ・・・なんという屈辱!ここまで言われたら、他の沿線の悪態の一つ二つもつきたくなります。「(住みたい沿線第1位)東横線がそんなにカッコいいか?ペンシルハウスみたいなのが建ち並んでる貧相なエリアが多いじゃねえか」、「(第2位)小田急線、何だあれは?鈍行列車なんか、止まってばっかりじゃんか」、「(第3位)田園都市線って何あれ?田園もないのに、田園都市なんて名乗るんじゃねえ!!!」・・・ 冷静に考えれば、狭い首都圏の中で沿線のカッコよさを競って、それでいい気になったり落ち込んだりすること自体、ケチくさい話だと思いますけどね。世界を見よ!アメリカ、中国の広大さを!オーストラリアの素晴らしい住環境を!ヨーロッパの歴史と溶け合った落ち着いた暮らしぶりを!東アフリカの大自然と共に生きる人々の暮らしを!・・・広い世界から見れば、東京の近郊暮らしなんて、どこ行っても似たようなもの。一番カッコいい東横線沿線の暮らしが、一番カッコ悪い常磐線のそれと、質的な違いがどれだけあるというのでしょう?私は以前、オーストラリアで育った妻を連れて、沿線イメージの良い小田急線の経堂駅(世田谷区)と、イメージの悪い常磐線の綾瀬駅(足立区)に連れていって、街の雰囲気の違いが分かるか聞いてみたところ、「どちらも似たようなものじゃないの!」と言ってました。要は、誰もが一目で分かるような差があるわけではないのです。 ですが、いくら開き直っても、首都圏のなかで常磐沿線がカス呼ばわりされていることは動かしがたい事実。それが、この地域に暮らす人々の心に及ぼす悪影響は、計り知れません。例えば、首都圏でよくある会話・・・ A:「あなたはどちらにお住まいですか?」 首都圏以外の人にはピンとこないでしょうが、東京は地下鉄の在来線乗り入れシステムが発達していて、都内を走る営団地下鉄千代田線が常磐線の取手まで乗り入れています。ですので、松戸、柏、我孫子、取手に住む人々は、上野まで行く常磐線と、北千住から地下に潜って大手町、霞ヶ関、赤坂、表参道まで直通する千代田線の両方を使えます。「常磐線」というと、上野からさらに奥地に行く電車、車内の宴会、オヤジ酔客、ゲロまみれ・・・みたいなカッコ悪いイメージがありますが、一方「千代田線」と言うと、自分は表参道や原宿まで乗り換えなしで行ける近郊都市に住んでいるんだ、みたいな気持ちになれます。要は、自分は首都圏ではランクの低い沿線に住んでいるという劣等感を少しでも打ち消したいという、悲しい心境なのです。 私が東葛について一番残念に思うのは、まさにこの点です。住民の多くは、自分の地域を誇らしく思っていない。誇らしくないから、できれば都内とか横浜みたいな、もっとかっこいい地域に引っ越したいと思っているし、この地域がどうなろうと、自分には関係ないと思っている人が多い。その結果、地域の政治が少数者に牛耳られて、街中に誰も歓迎しないような施設ができても、あるいはピンク産業やパチンコ屋や不動産賃貸のノボリ広告で街並みが汚らしくなっても、それに歯止めをかけようとする人が少ない。主観的なイメージはともかく、客観的にみて、この地域が首都圏のなかで特に悪い状態にあるとは思えないのに、でも「地域を良くしよう」という力が弱いために、首都圏の先進地域にどんどん差をつけられる。最近は同じ千葉県でも湾岸地域(浦安や幕張など)の沿線イメージが向上中で、東葛との差は年々開く一方・・・これに今すぐ歯止めをかけなければ、永久に「ダメ沿線」の呪縛から逃れられないでしょう。 東葛地域の住民は、概して、自分が千葉県民だという意識が希薄です。それどころか、「千葉県」という枠組み自体を快く思っていない、「アンチ千葉」的な人もかなり多いです。 左下の地図をみてください。赤線で囲まれた東葛地区は千葉県のなかで、北西の端っこの方にあります。茨城や埼玉に隣接し、東京23区にも近く、県都・千葉市まではかなりの距離があります。
ところで、東葛には「北西部いじめ」という言葉があります。千葉県の政治家やお役所は、東葛など北西部の住民からがっぽり税金を巻き上げておきながら、それを千葉湾岸方面や、東部・南部の広大な地域にバラまいてしまい、我々の地域に全然還元しない、奴らドロボーみたいな連中だ・・・という一種の恨み節です。 実際、お正月の元旦に届けられてくる読売新聞の「千葉版」には、県知事による新年のご挨拶とともに、県内で進行中の大規模開発プロジェクトの記事が写真入りで載っているんですが、その中で、東葛を舞台にするものなんて滅多にありません。千葉県は昔から「湾岸一極集中」政策をとり、湾岸エリアには東京ディズニーランドをはじめ、幕張メッセ、東京湾アクアラインなど、県が巨費を投じたプロジェクトが目白押し。一方、県の東部・南部は農漁村地帯でインフラがまだ未整備だし、政治力も強いから(土建政治)、そちら方面にも当然手厚い。それらと比較して、我が北西部地域は明らかに割を食っている、不公平だ・・・という声が多いのです。 さらに、東葛はすでに都市化された地域で、千葉県内では所得水準が高く、その分税金はガッポリ持っていかれる。だから、不満感はさらに募ります。柏を例にとると、1999年に完成した柏駅南口は、2年の歳月をかけた大規模工事なのに、千葉県は結局一銭もお金を出さず、柏市役所と市民の募金でようやく完成した、という経緯があります。奇しくも同時期、千葉県は湾岸地域の開発に巨額なお金を使っていました。また、Jリーグ・柏レイソルの二つ目のホームグラウンドである柏の葉公園総合競技場は、千葉県の負担で'99年に完成しましたが、これが市民の間でかなり評判が悪い。交通は不便だし、いかにもお役所がつくった施設という感じで面白味がないし、おまけに千葉県は、「せっかくつくってあげたんだから、全試合柏の葉でプレーしなさい」みたいなことを言ってくるし・・・県の公費を使った柏の葉スタジアムの建設は、千葉県行政に対する不信感を、さらに増幅させてしまった感があります。 柏の場合、東葛が千葉県のなかで割を食っているという不満に加え、柏が東葛のなかで行政的に割を食っているという、二重の不満があります。例えば、東葛における商業的・経済的な中心地は誰がどう見たって柏なのに、国や千葉県の行政機関の多くは松戸にあるから、例えばスピード違反で捕まったら、松戸まで罰金を納め行かなくてはならない。また陸運局は野田に持っていかれたから、新車を買ったら柏ナンバーでなく、「野田ナンバー」をつけなくてはならない・・・柏からみると、千葉県による「北西部いじめ」に加え、松戸・野田(の政治家)が千葉県行政権力を利用して、「柏いじめ」を行っているように見えることもある。さらに、柏は商業面で大きく発展したこともあって、県都・千葉市に対する劣等感がほとんどない。「千葉市なんて、大したことない!」と思っているところに、県行政による「北西部いじめ」、「柏いじめ」を感じている・・・柏はおそらく、千葉県で最も「アンチ千葉」的な気分が強い土地かもしれません。 「柏いじめ」が起こる理由の一つとして、柏のパワーの及ぶ範囲が千葉県の領域をはみ出して、大きく外に向かって広がっていることがあるかもしれません。特に柏の商圏は、千葉県だけでなく茨城県や埼玉県まで広がっているのに、千葉県としては当然、県内のことしか考えられない。例えば、千葉県の資料によれば柏の商圏人口は130万人なのに、柏商工会議所の資料では商圏人口230万とある。これは、前者が千葉県だけしか考えないのに後者が他県まで入れて計算していることによる違いであり、柏からすれば、「我が市は230万人の商圏があるのに、千葉県は130万人商圏としか評価しない。実態より柏を過小評価しているから、必要なインフラ整備もやってくれない」という不満があります。 柏や東葛の人間が、もし「千葉県のくびき」から逃れたいのであれば、一番手っ取り早くて確実な方法は、周辺市町村を合併して政令指定都市になることでしょう。政令指定都市になるということは、東葛の行政が事実上、千葉県から自立できるということです。これまで、国からの補助金等は千葉県を通じて配分を受ける立場に過ぎなかったのが、政令指定都市になれば県と同じ立場で国との予算折衝に臨むことができますし、また児童相談所の設置や国・県道の維持管理など、多くの権限が県から委譲されます。要は、千葉県にうるさいこと言われずに、自分の好きなように都市づくりができる余地が大きく広がるということなのです。 政令指定都市になるためには、100万近くの人口が必要ですが、東葛地域にはすでに130万の人口があります。それでは、この地域が一同団結して、政令指定都市になる日は近いのか?・・・というと、これがなかなか難しいんです。一体化した地域のように見えながら、実はあまり足並みが揃ってないのが、東葛地域なのです。 今度は、東葛の内部事情について、詳しく見ていきましょう。まずは個性あふれる(?)、東葛5市のプロフィールから・・・
(注1)沼南町との合併後の数値 松戸市(Matsudo):伝統ある「東葛の顔」、商都復活なるか? 松戸市は、東葛のなかで最も東京に近く、水戸街道の宿場町として古くから栄えた伝統ある都市です。現在では東葛5市のなかで最大の人口(47万人、千葉県3位)を持ち、千葉地検、千葉地裁、千葉家裁の松戸支部、松戸公共職業安定所、松戸社会保険事務所など国の機関、東葛飾支庁、東葛旅券事務所など千葉県の機関が立地する、東葛の「行政首都」でもあります。また松戸は、小型モーターシェア世界一のマブチモーター、ドラッグストア大手マツモトキヨシ発祥の地で、両者とも松戸に本社があります。 今日の松戸市は、住宅都市としての色彩が強いです。市域を常磐線、新京成線、北総開発鉄道、武蔵野線が通り、駅の数は17と、東葛のなかでダントツの多さ。これらは全て、東京への通勤電車です。常磐沿線の新松戸以南は概して庶民的な雰囲気ですが、新京成沿線の常盤平団地などは、落ち着いた雰囲気の近郊住宅地です。 但し、1980年代に東葛における商業覇権を柏に奪われて以降、都市・松戸の活力は低下しつつあります。特に松戸駅はターミナル駅でありながら、駅前再開発に失敗して商業集積が思うように進まず、残念ながら人口50万近い都市の中心地とは思えないほど、寂れてしまっています。近年では不況のため、優良店舗がどんどん撤退し、その跡地に風俗産業が入り込むなど、都市景観の劣化も否めません(注5)。他方、既存住宅地では高齢化が進行中で、その上ファミリー層の人口減少も見られ、今後、市財政状況の悪化と、それに伴う住民サービスの低下も懸念されます。今後、衰退都市に転落しないためには、松戸駅前の商業復活と、ファミリー層に選ばれる魅力ある街づくりが急務といえましょう。 (注5):これは松戸だけに限らず、東葛全域にみられる現象ですが、なかでも松戸市内で特に顕著なようです。 柏市(Kashiwa):首都圏有数の商業集積を誇る、「東葛の都心」 柏市は、常磐線と東武野田線、国道6号線と16号線が交差する、交通の要衝です。その地の利を活かし、都市再開発や大規模百貨店誘致合戦に成功した柏は、東葛随一の「商都」に成長しました。柏駅前の繁華街は地元や近隣地域のみならず遠方からも買物客、観光客(柏で遊ぶ人々)を集めています。また商業発展に伴い、シティホテル、オフィスビルなど都市機能も充実し、「東葛エリアの都心」らしい風格も備えてきました。柏は若者に人気があり、柏レイソルのサポーターやストリートミュージシャンなど、パワー溢れる若者文化の発信地となっています。但し、これまでは成功をおさめてきた柏駅前商業も、クルマ社会到来によるロードサイド店舗へのシフト、Tx開業による買物客流出リスクなどの問題を抱え、新たなチャレンジが求められています。 ですが一方では、Txが市域北部を通るため、沿線の柏の葉地区には東大キャンパスや東葛テクノプラザを核とする、新しい街づくり拠点が徐々にできつつあります。柏の葉地区と柏駅前という二大市街地を、どう有機的に結び付けられるか?これが将来の柏市発展のカギを握るのは間違いありません。私はこれに注目しています。何だかんだ言っても、東葛全体の地盤沈下を食い止めるには、柏の発展がどうしても欠かせませんから。 柏は駅前繁華街のイメージが強烈ですが、そこをちょっと離れると、それを微塵も感じさせないような、地味で静かな郊外住宅地に変貌します。柏市民の多くはそんな住宅地に住み、地元の田舎っぽい商店街で日用品を買い、ちょっと気合の入った買い物の時に柏市街地に繰り出します。柏の人口は現在33万人ですが、近く沼南町(5万人)と合併することにより、人口38万人の新しい柏市が誕生します。 我孫子市(Abiko):良環境の住宅地と、「手賀沼市民社会」 我孫子を「あびこ」と正確に読める人は全国にどれだけいるのでしょうか?我孫子は知名度こそありませんが、常磐沿線では比較的良環境の住宅都市として知られます。市域は「まともに開発された」分譲住宅の宝庫で、特に手賀沼沿いの地域は、(水質はともかく)閑静で風光明媚、そのため東葛では比較的高所得の人が住むエリアとされています(※でも近年では柏・流山とほとんど差がない)。なお、商都・柏に隣接するため、我孫子自体の商業集積度は低いです(柏に買い物にいく人が多い)。 比較的高所得、高学歴とされる我孫子住民は、身近な環境問題への関心が強く、特に手賀沼の浄化問題には、20~30年もの間、市民挙げて取り組んできました。手賀沼せっけんに象徴される市民運動も盛んで、その甲斐もあって手賀沼は20年以上続いた汚濁湖沼日本一の汚名をついに返上しました。また福祉重視の市政が続いたため、我孫子では保育所の待機児童ゼロ、という話も聞きます。我孫子は環境・福祉志向の強い「手賀沼市民社会」の中心地といえましょう。 ですが近年、「手賀沼市民社会」変質の兆候が見られます。その理由は、市内には単身者用のマンションが増え、土地付き分譲地を母体とする市民層が相対的に減ってきたこと、また財政事情の悪化と高齢化により、財政基盤を強化しないと従前の福祉政策を維持できないことが明らかになってきたこと等です。 我孫子市は2003年、柏市との市町村合併の話を断りました。これは、長年かけて育んできた「手賀沼市民社会」が、「産業と欲望の街」柏のカラーに染まってしまうことを拒否した、市民(市長?)の意思なのかもしれません。但し、市の財政事情は決して良いとはいえない上に今後急速に高齢化が進みますから、独立独歩の姿勢をいつまで続けられるかは不明です。 流山市(Nagareyama):Tx開通に命運を賭ける、新しい近郊住宅都市 流山市は、柏に隣接する人口15万の中堅住宅都市です。位置的には柏よりも都心寄りですが、これまで都心直結の鉄道がなかったため、市内に核となる市街地ができず、今日に至っています。流山はよく、「3つに分断された都市」と呼ばれます。すなわち、東武野田線によって柏とのつながりの強い北部地域(江戸川台など)、古くからの市街地である中部地域(流山駅周辺)、武蔵野線の通る南部地域(南流山)の3つに分断され、同じ市に属しながら互いの交流が決して盛んとはいえない状況でした。 ところが、来年秋にTxが開通すれば、状況は一変するでしょう。流山市内に3つの新駅ができ、それが都内の秋葉原まで直結するのですから、交通の便は飛躍的に向上します。特に南流山駅から秋葉原までの所要時間はわずか20分!・・・地元の期待は、大変なものがあります。実際、流山は東葛のなかで、新線開業によって最も変化する地域になるでしょう。流山市は2002年、柏市との合併話を断りましたが、これは流山独自の都市開発に賭ける意気込みの現れなのでしょう。 流山はこれまで地価が安かったおかげで、ミニ開発はあまり見られず、我孫子・柏と同様、比較的良環境の建売住宅が基調となっています。但し東葛の例にもれず、流山も道路インフラが貧弱で、それが新規都市開発のネックになりかねません。今後、それをどう解消していけるかが注目されます。 野田市(Noda):キッコーマンの城下町、陸の孤島を解消できるか? 野田市は、東葛の最北端に位置し、昨年、北隣りの関宿町と合併したことにより、文字通り千葉県最北の地となりました。野田といえば、何と言ってもキッコーマンの本社所在地。日本最大の醤油メーカーであるだけでなく、近年は寿司ブームに乗って、世界のキッコーマンとなりました。野田の中心地には大きな醤油工場があって、醤油の香りが漂ってきます。 近年の野田市は、東京への通勤都市として人口が増えつつあります。とはいえ、東葛のなかでは一番東京から遠く、都内直結鉄道もないため、住宅開発は近隣他都市ほど進みませんでした。鉄道から少し離れると、まさに陸の孤島。そこには東京近郊を全く感じさせない、純農村地帯が広がっています。Tx開通後は都心への時間距離が短縮されますので、野田市南部では住宅開発が進むと予想されますが、都心回帰のご時世、これまで遠くて不便だと言われていた野田が、住宅地としてどこまで良さをアピールできるか、それが市発展のカギを握るでしょう。 以上、同じ東葛でも、都市の特性はさまざまであることをお話ししてきました。全体として東京近郊の住宅都市でありながら、松戸は行政都市、柏は商業都市、我孫子と流山は純粋住宅都市、野田は企業城下町的な色彩が強い都市といえましょう。今度は、東葛内の各都市間の関係がどうなのかを見ていきましょう。 誤解を恐れずにいうと、現在の東葛は、「柏に中枢都市機能が一極集中」する構造になっていて、市町村合併などをめぐる都市間の問題も、柏がその焦点の中心にあるケースが多いです。したがって、「柏と周辺都市の関係」が分かれば、東葛の都市間関係が大体わかると言ってよいでしょう。 松戸−柏関係・・・新旧「東葛の盟主」のせめぎあい 東葛のなかで、松戸は一番歴史の古い都市で、長年、東葛の盟主であり続けました。松戸が江戸期以来、水戸街道の宿場町として栄えたのに対し、柏は昭和30年代まで、草深い「ど田舎」でした。松戸から見れば、柏は都市としては新参者です。現在も、松戸が東葛のなかで一番人口が多く、政治力も一番強く、千葉県や国の政府機関の多くが松戸に位置しています。 ところが、1980年代以降、「時代の風」が松戸から柏に向かって吹き続けている。商業・経済面をはじめ、文化やトレンドの面でも、柏がどんどん力をつけ、松戸の力が相対的に弱まっている。駅前の百貨店にしても、松戸が伊勢丹だけなのに対し、柏は高島屋、ステーションモール、丸井、そごうがあり、売上規模はざっと3~4倍。シティホテルにしても、柏市街地には大きいのが5つもあるのに松戸駅周辺には一つもない。おまけに県の行政機関さえ柏に移動しつつある。また、来年開通するTxにしても松戸の市域にはかすりもしないのに、柏の北部は通り、新駅も二つできるから、格差がさらに開くことは必至・・・ 最近では、柏が我孫子市、流山市、沼南町など、「松戸抜き」で周辺市町村を合併することにより、政治的にも「東葛の盟主」となろうとしているのは、松戸にとってもちろん面白いわけがない。特に流山は、位置的に松戸と柏の中間に位置しており、松戸としては、柏にとられる前に先手をとって流山と合併してしまおう、或いはすぐに合併できないまでも、柏が周辺都市と合併するのを防ごう、という政治的動きがあるようです。 一方柏としては、あくまで柏中心、松戸抜きの市町村合併を考え、松戸を大変警戒しているようです。その最大の理由は、松戸が合併に絡んでくると人口比では松戸が最大になり、松戸の市議がたくさん送り込まれて松戸中心の利益誘導を行い、その結果柏一極集中のシナリオが崩れるかもしれない、ということのようです。 歴史を振り返れば、松戸と柏の間には深い因縁があります。その最大のものは1954年、柏が市に昇格した直後に起こった「小金戦争」。柏と松戸の間にあった小金(こがね)地区が、当初の予定では柏市に編入されるはずだったのが、政治的な綱引きの末、結局その大部分が松戸市に編入になり、柏は松戸に対して、末永く「小金の恨み」を抱くことになった・・・東葛のリーダーシップをめぐる松戸と柏のせめぎあいは、まだ当分続きそうです。 柏−我孫子関係・・・「柏のラブコール、我孫子のとまどい」 我孫子も松戸と同様、水戸街道の宿場町として栄えた土地で、柏よりずっと歴史が古い。しかも大正時代には武者小路実篤、志賀直哉や白樺派の作家が我孫子の湖畔に住み込んで執筆活動を行い、「北の鎌倉」とまで言われた由緒ある高級住宅街。静かで地味な町ですが、プライドはそれなりに高い。だから、隣接する「成り上がり都市」柏の商業が勃興して、我孫子市民の多くが柏に買い物に行くようになっても、柏に対してある意味優越感をもっているところがあります。 我孫子はこれまで、手賀沼の浄化や、静かで落ち着いた街並みづくりに、それなりに努力してきました。たとえば、千葉県は日本一ラブホテルが多いといわれますが、我孫子には厳しい規制があるため、一つもラブホテルがありません。我孫子から市境を越えて柏に入ると、途端にラブホテルだらけになる有様です(柏市にもラブホテル規制があるのに、なぜだ?・・・それ以前に、ラブホテルって自分の近所にあっても普通利用しないものだから、たぶん我孫子市民が柏市内のラブホテルを使っていると思う。そう考えると、なんだかなあ・・・柏市民のぼやき)。 一方、柏は我孫子と合併したがっています(柏市民アンケートでの「望ましい合併相手」として、我孫子市がトップ)。それは、我孫子がこれまで創り上げてきた高級(っぽい)住宅地のイメージ、落ち着いた街並みと暮らしぶり、高い福祉水準・・・これらを柏市民が高く評価しているからです。一方、我孫子にしてみれば、これまで営々と築き上げてきた我孫子型社会システムが、柏と合併することにより損なわれるのではないかという戸惑いがあります。ですが一方で、我孫子の住宅地では猛烈な勢いで高齢化が進んでいる割に強い経済基盤もないため、これまで通りの福祉水準を保つには柏の経済力が必要、という意見もあり、我孫子市民の胸中は複雑なようです。 柏−流山関係・・・「生活圏の一体化のなかで」 流山は、江戸川の水運拠点として、柏より古い歴史を持った町で、「野田のしょうゆ、流山のみりん」といわれたほど、古くから地場産業を持ってきました。但し、流山には都心直結の通勤鉄道が一つもなかったため、近郊住宅都市としての一体化した発展がはかれず、北部地域は東武野田線つながりで柏と同じ生活圏に入る一方、南部地域は流山鉄道や武蔵野線つながりで松戸との関係が深く、もし柏か松戸との合併という話になったら、市内で意見が割れることは必至と思われます。 Txは、流山にとって悲願の都心直結鉄道がであり、この開通により流山は大きく変化することでしょう。今後、Txつながりで流山と柏北部との関係が深まり、松戸より柏との生活圏の一体化が進むものと思われます。 Tx開通によって、柏・流山市境の整備は大きな課題となるでしょう。現在、この二つの市境はむちゃくちゃに入り組んでいて、例えば四方を流山市に囲まれているのに柏市に属し、すぐ近くに流山市立の学校があるのに遠い柏市の学校に通わなければならない児童がたくさんいます。複雑に入り組んだ市境は都市整備の上で明らかにマイナスなので、より開発しやすいよう境界線の整備が進むものと思われます。 柏−野田関係・・・「独自の道を行く?」 野田は、言うまでもなくキッコーマンの企業城下町で、東葛のなかでは財政状態も良い。その上、野田と柏の中心街は15kmくらい離れているので、野田は小なりとはいえ、柏とは別個の都市圏を形成している感があります。但し、野田市の南部に住んでる人は、柏で買い物したり遊んだりする人が多いと思いますが・・・ 但し今後は柏や流山との生活圏の一体化が進むと思われます。Tx開通後、流山か柏北部に新しい市街地や商店街ができると思われますが、それは野田市民にとってアクセスしやすいものになるからです。そうなれば、「野田ナンバーを残すかわりに、柏市と合併」みたいな話が出てくるかもしれません。 以上、ずいぶん長くなってしまいましたが、東葛地域の各市について紹介していきました。次回は、Tx沿線でどの駅が発展しそうか?家を買うとしたらどこが良いか?今後の東葛はどうなっていくのか?などについて、書いていきたいと思います。 |
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