Free Web Hosting | free host | Free Web Space | Web Hosting

シドニー日記・職業生活編第117回

中国出稼ぎ計画−その3 (2005/1/4)


1.大晦日のオファー

 中国の転職先から、ついに正式なオファー(給料の提示)をもらいました!オファーのメールが届いたのがなんと、シドニー時間で大晦日の午後8時(北京時間では午後5時)。2004年も残すところあと4時間、日本で「NHK紅白歌合戦」が始まる1時間半前という、ギリギリの時点でのオファーでした。

 しかし皮肉なことに、このオファーのせいで、私は厄介な宿題を抱えることになりました。というのも、中国側が提示してきた給料が私の希望を下回っていたのです。額面だけで単純比較すれば、いま私がシドニーでもらっている給料より約25%低い!中国のITエンジニアの給与水準がまだ先進国レベルに達していないのは分かってますが、私としては、もちろんこの額ですんなりOKするわけにはいかないので、年を越した1月早々から、プロ野球選手の年俸更改よろしく、交渉に入ることになります。

 オファーの内容を詳しく見てみると、中国側として精一杯の「誠意」を見せた形跡はみてとれます。「なんとか手当て」、「なんとかボーナス」・・・といった類のものが、たくさんくっついているのです。しかし、実はこれが曲者なのです!というのも、この種の手当てやボーナスのカテゴリーが、オーストラリアや日本のそれとあまりに違うために、要は「何がなんだか、訳わからない」のです。だから、年俸交渉に入る前に、中国人の友人にオファーレターを実際に見てもらって、給与の構造を理解することから、始めようと思っています。

 中国で働く、ということがどういうことなのか、いまの私には海のものとも山のものとも分かりません。ま、何となく「面白そう」な予感はするし、曲がりなりにも「中国ビジネス」、それも北京・中関村とともに世界でも一目おかれる巨大IT集積地・大連での業務に関わることで、オーストラリアや日本へ帰った際の就職チャンスはいくぶん増すのかもしれません。ですが本当にITエンジニアやビジネスマンとしてのスキルアップにつながるのか、その辺はまだまだ未知数で、やってみないと分かりません。

 また、私が中国へ行くことによる家庭生活へのインパクトも未知数です。一時的には夫婦離れ離れになるわけですし、また仮に妻が将来、中国に越してきたとしても、その後の出産・子育てはどうするのか、等々の難問が控えています。それに労働時間も、オーストラリアよりは確実に長くなるでしょう。ですが、シドニーより物価の安い大連で暮らすことにより生活水準は上がるのかもしれないし、それに事態の展開如何によっては、中国へ移動したことが我々夫婦にとって素晴らしい未来への第一歩になることだってありうるわけです。こればかりは、やってみないと分かりませんし、やる前からあーだこーだと心配するのは、私の流儀ではありません。

2.中国行きの損得勘定

 キャリア面、生活面でのメリット・デメリットが予測できない以上、私が中国へ行くか、オーストラリアに留まるかの選択は、純粋に「お金」だけの尺度で決めようと思っています。妻とも相談した結果、次の三つの基準に関して、徹底的に数値化した上で、進退を決めることになりました。

1.現時点での額面の給料

 額面の給料は、マーケットバリュー。つまり、私の労働や技術力に対して市場がどれだけの価値を見出し、対価を払ってくれるか、を示すものです。プロフェッショナルである限り、自分のマーケットバリューにはとことんこだわりたい。だから私は、今回の転職にあたっても、額面ベースの給料が現在よりアップすることが、進退を決める一つの基準だと思っています。もっとも、オーストラリアから中国への転職の場合、物価や給与水準が全然違う分、仕事内容が同じでも額面ベースの給料を上げることが難しいわけですけど・・・

2.現時点での手取りの給料

 額面の給料から税金、年金、保険料などを差し引いた額が手取りの給料です。我が家の場合、当初は私が中国へ単身赴任し、妻がシドニーに拠点を置いて生活することになりますし、それにシドニーで住宅ローンをいくつも抱えていますから、私が中国でもらう手取りの給料はシドニーの物価・生活水準を基準に考え、現状よりも絶対に下回らないようにしなければなりません。

 オーストラリアと中国を比べた場合、中国の方が概して税金が安く済むようです。あと大連では「免税区制度」といって、外国人(中国人以外の)ITエンジニアの税金が一律半額になったり、或いはマンション賃料や母国へのフライト代を税額から控除できるという話ですが、この辺の事情はよく調べておかないと・・・また、オーストラリアの税制では、年に3ヶ月以上海外で働くと、タックスリターンの義務がなくなるそうです。ということは、私が中国で働いている間に家を売れば、キャピタルゲインタックス(増値税)を払わなくても良くなる??この点に関しても、税理士を使ってよく調べてみます。要はいろいろなシナリオを想定しつつ、中国で働くことが「トクになる」か否かを、よく見きわめようと思っています。

3.今後3年間の収入・資産・貯蓄増加見通し

 海外へ移って働くメリット・デメリットは、現時点での単純比較のみならず、中長期的なスパンで考える必要があります。具体的には、「向こう3年間が妥当な線ではないかと思います。

 このことは、私が東京の仕事を辞め、シドニーで転職した経験からもいえることです。私がシドニーに移った2000年当時、為替レートは1豪ドル=65円程度で、このレートで換算すると、シドニーでもらう私の給料は東京のそれに比べて額面で37%ダウン、手取りでは44〜45%ダウン・・・ということになります。これだけ考えると、まじで「アホらしくてやってられません!」。

 ところが、シドニーで3年、4年と勤めてみると、この異動は「まんざらでもなかった」ことが判明しました。まず第一に、為替レートが変化しました。ここ数年、豪ドルの価値が大いに上がり、現在では1豪ドル=80円程度。で、いまのレートで比較すると、日豪間の給与格差は額面ベースで約20%にとどまり、「ま、2割減なら、なんとか我慢できる」という気にもなってきます。

 第二に、シドニーに拠点を移すことによって、我が家の資産価値や貯蓄が大いに増加しました。私がシドニーで働いた4年間、オーストラリアは経済黄金時代かつ住宅バブルの世でした。家を買えば確実に価値が上がり、銀行に預金すれば年利が4〜5%は当たり前についてきました。そんな状況の中で、私も家を買いましたが、その資産価値の上昇は私の額面年収とほぼ同じ!つまり資産価値の面でいえば、「4年働いたら、5年分の給料が返ってきた」も同然なのです。そのおかげで、「東京と比べて年20%の給料ダウン」が、見事に相殺されてしまいました。加えて、預金利子が4〜5%の世界・・・家を買う直前などは6万ドル前後の貯金がありましたから、月々の利子が黙ってても200〜250ドルついてきました(あとで課税されますけどね)。

 仮に、私が今なお東京で働き続けたとしたら、どうなったでしょう?ま、リストラされずに、安定した給料を稼ぎ続けてはいたことでしょう。また、投資用マンションの一つも買っていたことでしょう。ところが東京では、最近4年間に不動産を買っても、資産価値の上昇はまず望めなかったでしょう。それに、いま日本で貯金したところで利子などゼロに等しいし、株式・投資信託にしても日本株中心のポートフォリオで儲けるのは難しかったことでしょう。もっとも、外国株中心の投資信託なども多少はやって、ある程度の収益は上がっていたかもしれませんが、でも月々の給料が日本円で振り込まれる以上、そのうちのせいぜい10〜15%しか投資に回せず、あとは預金してローン払って生活して・・・そう考えると、投資収益といってもタカが知れてただろうと思います。

 収入、資産価値、貯蓄の増減・・・これらもろもろを考えると、私が4年前、東京からシドニーに移ったことは、お金の面でいえば「正しい選択」でした。そう考えた場合、これから中国の大連に拠点を移すことは、シドニーに留まることに比べて果たしてトクなのか損なのか?その辺をよく見きわめる必要があります。もっとも中国自体、私にとって勝手の分からない外国ですので予測は非常に難しいのですが、私が現時点で想定する主なイベントは次の通りです。

1)人民元の切り上げ・・・中国人民元は、今後3年以内に確実に切り上げられ、米ドルや豪ドル、日本円に対して価値を上げるでしょう。その時期がいつになるのか不明ですが、切り上げ当初は現在の1米ドル=8.27元のレートが7.8〜7.9元前後まで上がり(香港ドル並みになる)、その後も北京五輪、上海万博などの追い風を受けて、徐々に価値を上げていくと予想します。日本経済史でいえば、1971年のスミソニアン合意(1ドル=360円から308円に)、1973年の完全変動相場制への移行(1ドル=308円から300円に)と似たようなことが、今後の中国で起こると思います。そうなれば、人民元ベースの私の給料の豪ドル換算額もある程度上がると予想されます。

2)年収アップ・・・ここ数年のオーストラリアは経済黄金時代と称されますが、中国の経済成長率はその2倍以上ありますし、加えて大連の経済成長率は中国平均をさらに上回ります。高度成長に伴い、中国のITエンジニアの給料の伸び率も、オーストラリアの同業者を大きく上回っています。とはいえ、今後の中国は人民元切り上げもあり徐々に高コスト化していきますし、従前の勢いが今後3年続くかどうかはまだ不透明ですが、それでも、ITマーケット全体の伸びや、大連におけるIT集積の大きさ(転職チャンスの大きさ等)を考えると、向こう3年間の年収アップの見通しは、シドニーに留まるよりもいくぶん大きいと予想されます。

3)資産価値アップ・・・私はシドニー滞在中、主に不動産市場を使って資産価値を伸ばしてきましたが、大連でも同じようなことができるのか?それに関しては、まだ未知数です。私が得た断片的な情報によれば、いま中国では定期預金してもインフレ率に追いつかない状況だそうですし、また不動産投資、株式投資にせよ、オーストラリアと比べると概してリスクが高そうです。これだけは大連に実際に住んで、いろいろやって(痛い目にもあって)みながら学んでいくしかないでしょう。但し、もし我々夫婦が生活拠点をシドニーから大連に移した場合、物価・生活費が断然安い分、投資や貯蓄に回せる部分が増えそうではあります。

 要約しますと、これら3つのファクターを徹底的に検証した上で、中国行きが「トクになる」と判断すれば行く、「損になる」と判断すれば行かない、ということになるでしょう。もちろんそれには、今後の給与交渉の結果が大きくモノを言うことは間違いありません。そして「決断の日」は、おそらく1月10日前後・・・

3.何ゆえに胸躍る?

 大晦日オファーを目前にした年末のある日の夜、私は、興奮のあまりいつまで経っても眠れませんでした。その隣りでは、妻が静かな寝息を立てています。それを見て、私はこう思いました・・・そうだ、俺はこの寝息を毎日聞くために、はるばるシドニーまでやってきたのだと

 愛する人がすぐそばにいる・・・多くの人にとって、これに勝る幸せはないでしょう。もちろんそれは、私にとっても、妻にとっても言えることです。思えば、かつて私が10年間にわたる日豪間の超長距離恋愛を乗り越えて、シドニーに移住してきたのは、「彼女と一緒に暮らしたい!」という一念からでした。それ以来、4年半にわたるシドニーでの暮らしは、良いこと悪いこと、いろいろありましたが、全体として幸福感いっぱいの、夫婦水入らずの暮らしを楽しんできました。

 でも今回は、せっかく手に入れた幸福な状態を、一時的にではあれ、私自身の意志で断ち切ろうとしています。妻をシドニーに残したまま、私ひとり大連に単身赴任するというかたちで・・・もちろん、いつまでも別居を続けるわけではありません。少なくとも1~2年後には、私がシドニーに戻るか、或いは妻を大連に呼び寄せるか、何らかのかたちで一緒に暮らすと決めています。でもそれまでの間は、妻に寂しい思いをさせてしまうわけですし、私も寂しい思いをするし、短期的には、得るものより失うものの方が大きいだろう。そこまでしても、大連へ転勤したいのか?それだけの価値があることなのか?

 とはいえ私は、夫婦たるもの、必ず一緒に暮らすべきだ!と考えているわけでもありません。妻と夫、どちらも個人としての生活があり、職業があり、社会的地位もあります。各自の社会的発展のために、一時的に別居することも、時には必要なことだと思います。例えばの話、妻が博士号をとるために米国で2年間留学したいと言い出したら、私はまず反対しません。留学を実現するべく、夫として、できるだけのことはサポートするつもりですし、一時期の別居の寂しさを耐え忍ぶことはもちろん、場合によっては仕事を辞めて妻と一緒に渡米することも厭わない。

 とは言ってみたところで・・・今回の大連行きの話が、私のキャリアや収入アップにどれだけ結びつくものなのか、今後家族の幸せにどれだけ寄与するのか、私自身、納得できる答えがまだ出せていません。確かに、オーストラリアのIT業界は最近先細り感が強まってきているし、これを機会に伸び盛りの国・中国に自分自身をポジショニングした方が良さそうだ、という気はします。それに、まだ年齢も若く、子供もいない身軽な今こそ、海外雄飛(?)のチャンスだとも思います。でも、たったそれだけの根拠で海外単身転勤を決めてしまうほど、私は若くもありませんし、家族に対してそれなりに責任もあります。

 なのに私は・・・大連行きに対して、胸の高鳴りを抑えられないのです。なぜ、何ゆえに胸躍る?それは自分でもよく分かりません。大連は私にとって縁もゆかりもない未知の土地、親類縁者もいなければ、友人だって数えるほどしかいない。中国という国、大連という都市に対して、何か特別な思い入れがあるわけでもない。それに大連行きによって、給料が劇的に上がるわけでもないし、気候だってシドニーほど快適ではないだろうし、生活や医療のレベルだってまだまだシドニーには及ばないだろう。それに、かの地で私を待っているものは、おそらく激務だろう。大晦日に提示された給与額は、想定よりやや少なかったとはいえ、それでも大連現地のローカルスタッフの給料よりはずっと高いわけで、福利厚生も税制優遇措置も彼らよりずっと手厚い。給料が高ければ、それだけ期待も高くなるのが世の常。私はその期待に応えるべく、おそらく、連日長時間働くことになるのだろう・・・

 私は自問自答してみました。客観的にみてそれほどメリットがあるとはいえない大連行きの話に、どうして惹かれてしまうのか?・・・それを考えだすと、ますます眠れなくなりました。でも、答えは意外なところに、転がっていたようです。

 私は、バックパッカー上がりの人間です。今から15年前、私はバックパックを背負って世界中を放浪する「旅人」でした。その「旅ごころ」が、未だに私の体内に熱く流れています。そんな私が大学を出て就職して、一応はサラリーマンになりました。でも実際は渡り鳥よろしく、流れの板さんよろしく、日本や世界の各地を転々とする暮らしをずっと続けてきました。「同じ場所に3年以上は住まない」、「同じ会社に5年以上勤めない」原則を後生守り続けたまま、今日に至っています。要は、バックパッカーがスーツ着て、サラリーマンやってるようなもんです。

 バックパッカー時代、何が一番楽しかったかというと、それは国境越えの瞬間です。例えば、シンガポールからマレーシアへ、オーストリアからチェコへ、米国からメキシコへ、メキシコからグアテマラへ・・・国境線をまたいだ瞬間、その向こう側には全く未知の新しい世界が広がっている!そこには、これまでとは違う言葉を話し、別の神々を信じ、全く異なるライフスタイルで日々を送る人々がいる!おおよそ、これほど刺激的で、興奮する瞬間はありません。極端な話、これが楽しくて、毎回懲りずに旅してきたようなもんです。

 私がいま、大連行きにこれほど胸が高鳴ってしまう理由も、これで説明がつきます。要は、シドニーから大連への異動に対して、「国境越えの瞬間」みたいな興奮と快感を覚えてしまう、バックパッカーの本能なのでしょう。大連がいまの私にとってまるっきり未知の土地であることが、興奮に拍車をかけます。勝手の違う異国であればあるほど、そしていま私がいる地点(シドニー)とは全く異質な世界であればあるほど、それを一目見てみたい、その環境の中で暮らし・働いてみたい、という思いに駆られるようです(我ながら困ったもんだ・・・)。

 もう一つ言うと、IBMオーストラリアという完成された巨大企業の正社員という立場に飽きてしまい、「一味違う刺激」を求めたくなったのかもしれません。そういえば、私の友人が以前こう言ってました。「私からみれば、IBMオーストラリアの社員というだけでも夢のような成功に見えるけれど、鈴木さんにとっては、さらにその上があるんですね・・・」と。

 今回の大連行きが、「さらに上を目指す」ことなのかどうかは分からないけれど、少なくとも私にとって、IBM社員という肩書きなんて、別にどうでもいいことなんですよね。だいいち、私が苦労してこの会社をつくったわけでもなし、すでに出来上がった巨大企業にたまたま拾われて、雇用契約を結んで、自分の時間と技術を切り売りして、お給料をいただいてるだけですから・・・もともと強い思い入れもありませんし、ましてや一生勤めようなんて気はさらさらありませんし。

 そんな時に、一応IBMグループではあるけれどその子会社で、中国でITサービス事業を展開するISSCという会社から、「鈴木さん、ぜひ当社に来て働いてください!」という声がかかって、人生意気に感じてしまった点がなきにしもあらず・・・。この会社は、まだ発足して日が浅く(2002年に発足!)、発展途上です。1年余り前にできた大連のオフィスはシドニーよりずっと小さく、自力でアプリケーションを開発できるだけのリソースもまだ未整備で、今のところ日本や韓国、米国などから、サポートや運用の仕事を取ってきて、仕事を回すことで精一杯、という状況のようです。その割に、スタッフの圧倒的多数は中国人ですから、日本人や韓国人のIT技術者ならノドから手が出るほど欲しいようです。要は、私みたいな人間を必要としている職場なのです。

 「面白そうじゃん!」と思いました。中国人が主体の(実質的に中国企業)、生まれて間もない会社で日本向けサービスのコアメンバーとして働く。この会社がどんどん成長して、アジアと世界に羽ばたいていく、その過程に関わりながら働く・・・IBMオーストラリアという成熟した企業のなかで、組織の歯車的な業務をこなすよりも、こちらの方が私にふさわしい「Manachan的な働き方」なのではないか、という気もしているのです。でもこればかりは、やってみないと分かりません。

 本格的な年俸交渉はいよいよ明日スタート。さてどうなるか?乞うご期待。

ページ先頭へ戻る

その2へ戻る
完結編へ続く