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南太平洋から、「世界最大の島」オーストラリア大陸の横腹に鋭く切れ込むシドニー湾。その河口近くに、シドニーの中心市街地(シティ)が広がっています。そう、あの有名なオペラハウスとハーバーブリッジのある所です。そこから、さらに湾内をフェリーで遡ること約1時間で、パラマタ(Parramatta)の渡船場に到着します。ここはシドニー湾の最奥部、水路で到達できる最も内陸の地点です。シティからの距離は23km。このパラマタの街は大きく発展し、今ではシドニー郊外の中核都市の一つです。別名「シドニーの副都心」とも呼ばれています。
私はパラマタの渡船場から歩くこと約10分、フェリーを見下ろす高台の家に住んでいます。目の前に広がるパラマタ市街地を眺めながら、「この街もずいぶん立派になったものだなあ」・・・その頼もしい成長ぶりに目を見張らされる今日この頃です。
1.変貌する副都心・パラマタ
私が初めてパラマタの街を訪れたのは、今から4年前の2000年6月のことです。当時はシドニーに移住して間もない頃で、まだメインの仕事が見つからず、「つなぎの仕事」として、某日系企業で翻訳のアルバイトをしていました。その職場がパラマタから東へ約2km、やや殺風景な工場地帯の一角にありました。毎日、定時(5時)に仕事をあがると、外はまだ明るいし、周りには何もないし、このまま真っ直ぐ帰るのも面白くないので、週に2回はパラマタの街まで歩いて、そこで中華やベトナム料理を食べたり、街中をブラブラ歩いて時を過ごしました。
当時のパラマタの印象は、「規模は大きいんだけど、いまいちパッとしない街」でした。確かに駅は大きいし、その前には巨大なウェストフィールド・ショッピングセンターが聳え立ち、商店街もホテルも、ビジネス街らしきものも一応は揃っている。でもその割にはイケてない・・・街のシンボルであるはずのパラマタ川のリバーサイドは草ぼうぼうで、コンクリート剥き出しで見苦しいし、気の利いた店やレストラン、カフェの類が圧倒的に少ないし、駅前の商店街は薄暗くてそこに激安ショップが並び、夜には犯罪の巣窟になりそうな雰囲気さえ醸し出していました。
それから4年の歳月が経ち、パラマタの街は大きく変わりました。それはもう、半端じゃないほどの物凄い変貌ぶりです。一体何が変わったのか、思いつくまま列挙してみますと、
- 中心市街地に、オフィスビルや高層マンションがたくさん建ち、遠目にみても街のかたちが変わった
- 新しくできたオフィスビル群に、官民含めて多くのビジネステナントが入居し、この街で働く人数が大きく増えた
- パラマタ各地に点在する、歴史を感じさせる砂岩造りの住宅街が、SOHOビジネス街に変わった
- パラマタ川のリバーサイドが美しく整備されて、街のちょっとした観光名所になった
- リバーサイドの遊歩道と、パラマタ川を渡る歩行者専用道路が何本も整備されて、回遊性のある街になった
- 目抜き通り(チャーチ・ストリート)が整備されて、歩きやすく、オープンカフェの似合う街並みになった
- イタリアンカフェ、各国料理の店が大幅に増え、レベルも上がった
- ファッション、家具、食材など、あらゆる分野で、クオリティを追求する店が爆増した
- パラマタとリバプールを結ぶ新交通バスシステムT-Wayが開通した
さらに、今後数年間でこの街はさらに「副都心」らしく、大きな変貌を遂げることが確実です。いくつか列挙してみますと、
- パラマタ駅南側の商店街立ち退きがすでに完了し、その跡地に、バスターミナルと鉄道駅の複合施設が現在建設中で、2006年末に完成予定。その階上にはシネマコンプレックスができ、隣接するウェストフィールド・ショッピングセンターと空中回廊で結ばれる計画がある(詳細)
- パラマタ駅北側、市庁舎や図書館のあるエリアは、パラマタ市が強力に推進する、総工費10億ドルとも言われる大規模再開発プロジェクトの予定地となっている。その完成の暁にはCivic
Placeと呼ばれる中心市街地になり、高さ126mのツインビルが完成する予定(詳細)。
- パラマタ駅西北のエリアでは、Parramatta Justice Hubとよばれる、大小20を超える司法関連施設の立地が予定されている(詳細)。
- 今後数年かけて、警察局、交通局をはじめ、数千名単位のニューサウスウェールズ州の政府職員がシティからパラマタに移る予定で、これは現在進行中。
私は2002年7月に、ここパラマタで土地付きの家を買い、今も住んでいます。住地をパラマタに決める前は、「ノース」と呼ばれる、シドニー湾北岸地域を中心に家探しをしていました。「ノース」は環境の良い郊外住宅地として名高く、シドニー在住邦人にも人気の高いエリアです。ところが、さすが人気エリアだけに「ノース」の家は高い。びっくりするほど高い。予算内で手の届く住宅を探すうちに、シティからどんどん遠ざかり、ついに「ノース」最北端のホーンズビー(Hornsby)までやって来ましたが、それでもまだ高い。そこで方針転換して、住宅地としての評判は多少落ちるけどその分相場の安いシドニー西部のパラマタ周辺を探すことになりました。
私はパラマタの市街地や住宅地をこまめに歩き回り、交通や買い物の便、地域開発計画などを一通り研究しました。そしていつの間にか、パラマタの「将来性」に魅せられてしまいました。パラマタが将来、ビジネス都市として「大化け」するかもしれないと、心のどこかで予感するものがあったのです。その時点で私はすでに、「家を買うならパラマタ!」と決めていました。
確かに現時点で比較すれば、自然環境、教育環境、治安、利便性、コミュニティの成熟度など、総合的にみて住宅地としてのクオリティはノースに軍配が上がります。パラマタの住環境も悪くはありませんが、正直言って、少々高いお金を払ってもノースに住んだ方が気持ちよさそうだし、ライフスタイルの面でも大きな満足が得られそうだと思いました。でも私は、「ノースの現在」よりも「パラマタの将来」を買いたくなったのです。
もしパラマタが将来「大化け」して、例えばシティと天下を二分するようなビジネス中核都市になったらどうなるか?まず市街中心部では、オフィスビルや商業施設、高層マンション用の土地が不足して、土地が値上がりするでしょう。そしてそれは必ず周辺地域に波及するでしょう。またパラマタで勤める人が増えれば、パラマタ通勤圏、特に徒歩圏内エリアの住宅需要は高まる。そう考えると、パラマタのビジネス街から徒歩圏内に家を買っておけば、将来大きな値上がりが期待できるかもしれない。逆に、今後住宅バブルが弾けて、シドニーの多くの住宅地が値下がりするような事態になったとしても、パラマタ勤め人の「実需」がある限り、そう激しい落ち込みはしないだろう・・・
将来のビジネス発展可能性を考えたとき、パラマタには絶好の「地の利」があります。まず第一に、ここはシドニー都市圏400万人口のうち、約半数の200万人が暮らすシドニー西部地域の中心都市であることです。このシドニー西部は、現在でも人口が急増しています。シドニーのなかでは地価が比較的安い西部に、若いファミリーがどんどん移り住み、たくさん子供を産むから出生率が高いし、また中近東系移民など「子だくさん」なエスニックグループの多くが西部に住み、出生率をさらに引き上げています。自然増と社会増が基調になっているこの地域の人口は今後増え続けることは確実です。その西部の大人口を背景にしたパラマタは、言うまでもなく商業的に大きな発展ポテンシャルを持っています。
第二に、パラマタがシドニー都市圏(大シドニー)の地理的中心であり、人口重心でもあることです。シドニーという都市は、シティから北と南に20数km離れると国立公園になり、東は10kmも行かないうちに太平洋になります。したがって、住宅開発は西へ西へと進まざるを得ず、現在ではシティから西方50km圏までほぼ全て郊外住宅地になりました。それとともに、人口重心は西へ西へとどんどん移動し、現在では人口重心はシティから西へ23km離れたパラマタ近辺にあります。実際パラマタに住んでみると、自分からみて東の方角と西の方角、北の方角と南の方角に、それぞれ同数の人間が住んでいる感覚になります。日本でいえば、ちょうど名古屋や岐阜県に住んでるような感覚でしょうか。
つまり、パラマタはシドニーに住む多くの人口がアクセスしやすい中心的位置にあるのです。ビジネス的にいえば、「顧客に近く、スタッフにも近い」。このような立地は、多数の顧客へのアクセスが決め手になる保険会社とか、セールス、カスタマーサポート、或いは多くの人手を必要とするバックオフィス的業務に向いています。また、より多くの市民がアクセスしやすいという意味で、行政、司法サービスなど、各種政府機関の立地にも向いています。実際ここ数年だけで、NSW州警察本部や交通局など政府機関、また国内顧客を主な相手とする保険会社もいくつかパラマタに移転してきました。これらを考えると、パラマタが将来、シドニーを代表するオフィス街として発展するポテンシャルは大きいといえましょう。
一方、ノースに関しては、全く別の印象を持ちました。確かにノースは住環境が非常に良く、郊外住宅地としては今後も人気の地域であり続けるでしょう。またチャツウッド、セントレナーズ、ノースライドなどシティに近い各都市には多くの多国籍企業やハイテク企業が立地し、その点では後発のパラマタに対して一歩も二歩もリードしています。地域ブランド力は十分あるし、交通網の整備も進み、生活利便性も高い。
ですが一方で、この地域では人口がこれ以上増えそうな気配があまりない。年配者やプロフェッショナルの男女が多いエリアですから出生率が非常に低いし(場所によっては西部の半分以下!)、また地価が高いために、今後若い世代が大挙して移住することも考えにくい。また、西部に比べると住宅新規開発の余地があまり残っていない。とはいえ、土地に余裕がないわけではないんですけど、でも基本的にこの地域の裕福な住民は環境保護意識が強く、開発を嫌う傾向がある。したがって、今後駅前エリアで高層マンション開発が多少進んでも、全体として住宅開発はそれほど進まず、将来的には高齢化して人口も横ばいから減少に転じていくだろうと思われます。
ノースの人口がこれから減少に向かうのだとすれば、人口増加基調にあるパラマタ及び西部に対して、地域間競争の上で少なからぬハンディを負うことになるかもしれません。もちろん、西部地域の大人口がノースにあるオフィスに通勤してくれればいいんですけど、そのためにはパラマタとのビジネス競争に勝たなければならない。後で詳しく話しますが、パラマタは今、シティのオフィスをどんどん奪い取って、名実ともに「シドニーの副都心」にのし上がろうと官民ぐるみで努力しており、すでにノースの各都市と激しい競争状態にある。現在ではノースがやや優位にあるのかもしれませんが、地の利と人口に恵まれたパラマタ&西部に、将来的にも勝ち続けることができるのか?それがノースの将来を左右するだろうと思います。
2.パラマタのライバルたち
次に、現時点や将来の時点で、パラマタにとってシドニー圏内のどの都市がライバルになるのか、それらと比較して、パラマタの強みと弱みは何か、について考察してみます。
いまパラマタが目指しているのは、「シドニーの副都心としての地位を確立する」ことです。そして長期的には、「シティと並ぶシドニー二大ビジネス街の一角を担う」ことを視野に入れているようです。すでにパラマタは全シドニーの半分の人口を代表する都市ですから、現時点ではいささか野心的に聞こえる「シティとの天下二分構想」も、あながち理解できない話ではありません。
現時点で、シドニーの「都心」と呼べる地域はシティとノースシドニーです。この二都市はシドニー湾を挟んで向かい合った位置関係にあり、シドニー・ハーバーブリッジで結ばれた「ツイン・シティ」となっています。オーストラリアを代表する大企業の本社や、金融・株式・為替市場、英米を中心とする多国籍企業のオーストラリア主要事務所の多くは、この「都心部」に位置しています。
しかしながら、「都心部」のオフィス街はすでに手狭になり、再開発の余地も限られています。また当然ながら、オフィス賃料もシドニー(全豪)で一番高いし、特にシティでは駐車料金はバカみたいに高いし、道路の渋滞はすごいし、満員電車での通勤に対するスタッフの不満も無視できません。ですから現在都心に立地する企業の一部は、都心部以外へのオフィス移転を考えているようです。現在パラマタが狙っているのは、そういう、都心を脱出した企業の受け皿となることです。
では現在、実際に「都心脱出企業」の有力な受け皿となっている副都心的な都市はどこかというと、パラマタ以外に次の3つがあります。
セントレナーズ(St.Leonards):シティから北へ8km、鉄道North
Shore Lineの沿線上にあり、ビジネス街としては小型だがハイテク企業のオフィスがいくつか立地している。但し高層マンションが駅前に林立しているため、オフィス街の発展余地はほとんどない。
チャツウッド(Chatswood):シティから北へ12km、鉄道North
Shore Lineの沿線上にあり、「ノース」におけるビジネス・商業の中心地。鉄道駅をはさんで西側はビジネス街、東側は商店街&高層マンション地区と明確にゾーニングされているのが特徴で、西側にはテルストラはじめ、30階建て規模の高層オフィスが林立している。但しセントレナーズ同様、オフィス街はすでに建て込んでおり発展余地は少ない。
ノースライド(North
Ryde):シティから北西へ17km、現時点で鉄道は通っていないが、2008年をめどにチャツウッドからの鉄道が開通する予定。また、高速道路M2でシティと直結している。ここは別名「シドニーのシリコンバレー」と呼ばれ、マクウォーリー大学と周辺のハイテク企業を核とする産学協同研究、ビジネスパークの試みが見事成功し、すでにオフィス街として着実な歩みを続けている。オフィス用の土地はほぼ無尽蔵にあり、発展余地は大きい。但しこの辺は完全にクルマ社会だから、パラマタやチャツウッドと違って、核となる中心市街地が形成されていない。
この3つの「ライバル都市」は、いずれもシティからの距離が比較的近く、加えて地域イメージが良いため、都心脱出企業が真っ先にオフィス移転先に挙げたがる場所です。但し、セントレナーズとチャツウッドは、パラマタと違って「シドニーの副都心」と呼ばれることはほとんどありません。なぜなら、いずれの都市もオフィス用地がパラマタの半分以下しかない小規模ビジネス街で、今後も拡張する余地がほとんどないからです。すでに飽和状態に達してしまった、といっても過言ではないでしょう。
但し、ノースライドは違う。ここはパラマタと並んで、シドニーの副都心と呼ばれています。もともと何もなかったところだけに、オフィス街の発展余地はほぼ無限にあります。数年後には鉄道駅もできて交通の便が飛躍的に良くなるし、さすがに数十年前から国の肝入りで育てたビジネスパークだけに、道路インフラも通信インフラも整備されている。ビジネス街の更なる発展を目指すパラマタにとって、現時点でも将来時点でも最も恐るべき競争相手になるのはこのノースライドだろうと私はみています。
次に、近い将来、副都心的な役割を果たしそうな都市をいくつか挙げてみます。
サウスシドニー(South
Sydney):シティから南へ5km。Green Square駅周辺を中心に、シドニー最大規模の再開発がこの地で予定されている。空港とシティの中間地点という抜群の立地条件が最大の魅力。
ハーストビル(Hurstville):シティから南西へ15km。シドニー南郊の中心都市で、鉄道が通り、空港にも近い。「南のチャイナタウン」と呼ばれ、現在は中国系住民を中心とした商業都市だが、近い将来、再開発によってオフィス開発が予定されている。
ホームブッシュ(Homebush):シティから西へ16km。パラマタからは東へ8km。広大なオリンピックパーク跡地の有効利用により、テレコム、IT系オフィスの集積を狙っている。パラマタと同様、シドニー都市圏の中央部に位置して交通の便が良いのが強み。
ボーカムヒルズ(Baulkham
Hills):シティから北西へ27km、ほぼパラマタ郊外のような位置にあり、鉄道は通っていないが、高速道路M2でシティと直結。Norwestビジネスパークを中心に、ノースライドと似たタイプの郊外型オフィス街としての脱皮を狙っている。
リバプール(Liverpool):シティから南西へ32km。シドニー南西郊外の中心都市で、高速道路M5で空港・シティと直結。鉄道駅もある。現在最も人口増加、経済成長が著しいエリアにあり、ビジネス街の成長も著しい。位置関係からみて、将来パラマタと競合しそうな都市の一つ。
これらの都市は、オフィス街としてはまだまだ発展途上にあり、今後数年以内に、パラマタを脅かすようなライバルになる可能性は少ないでしょう。但し、どの都市も将来的には十分ライバルになりうる立地条件と実力を備えているので、パラマタとしては優位にある今のうちに、一刻も早く副都心としての地歩を固めておく必要があるでしょう。
次に、これらライバル都市との比較の上で、パラマタの強みと弱みについて考えてみます。
パラマタ(Parramatta):シティから西へ23km。200万人口を擁する西部シドニーの中核都市。商業・ビジネス都市である他、行政都市、法曹都市でもあり、多面的な都市機能を備える。鉄道Western
Lineの沿線にあり、シドニー圏各地への道路交通の便も良い。法律事務所、会計事務所、ホテルなど、ビジネスインフラも整い、オフィス街の発展余地も多少残されている。
現時点でのライバルである、セントレナーズ、チャツウッド、ノースライドの3都市と比較してみると、次のようになるでしょう。、
シティからの交通の便:セントレナーズ、チャツウッドに比べればやや劣るが、鉄道幹線が通っている分ノースライドよりは優位。でもノースライドに鉄道が通れば、パラマタの優位性は多少薄れる。
ビジネス街の発展余地:セントレナーズ、チャツウッドに比べれば明らかに土地に余裕があり、発展余地が大きい。但し、ノースライドほどの広大なオフィス用地はない。
オフィスコスト:セントレナーズ、チャツウッドに比れば明らかに安く、優位にある。但しノースライドほど安くはないと思われる。
ビジネスインフラ:豊富に存在する法務・財務の専門家、行政・司法機関の存在、ビジネスホテルなど、ライバル三都市に比べて優位にある。
その他:パラマタは人口増加地帯の中心にあるため、内需系の産業やバックオフィス系、政府系のオフィスがライバル三都市のどこよりも立地しやすい。反面、多国籍・ハイテク企業の誘致ではこれら三都市に遅れをとっており、今後どれだけ挽回できるかが興味深い。
3.パラマタの光と影
今度は、都市パラマタが抱える負の側面についても、いくつか指摘してみましょう。
中心市街地での高層マンションとの混在問題
パラマタの中心市街地では、ここ数年ものすごい勢いで20階程度の高層マンション建設が進み、その結果、「オフィス街と高層マンションの混在」現象が甚だしくなっています(詳細)。一方、オフィス用のビルはたいてい10〜15階建てなので、せっかくインテリジェントオフィスビルを建てても、高層マンションの谷間になってしまう・・・チャツウッドのようにゾーニング規制によりオフィス街とマンションを明確に分けておけばよかったのかもしれませんが(そうすると無機質の街になって面白味がなくなるけど・・・)、パラマタはそれを徹底できませんでした。いや、ある程度は規制したのかもしれませんが、ここ数年のマンション建設圧力があまりにも大きくて、規制しきれなかったのでしょう。
これは、副都心としての地位確立を狙うパラマタに、暗い影を落としそうです。都心の一等地、本来ならビジネスオフィスを建てるべき場所に、高層マンションがたくさん入り込んでしまい、大きなスペースが取られてしまったのですから。それにこの高層マンションという物件は、市街地再開発の大きな障害要因です。再開発が難しいのは日本もオーストラリアも変わりませんが、高層マンションというのは最も立ち退きが難しい、というか、ほぼ不可能でしょう。すでに何百もの住宅が分譲されて、そこに人が住んでいるものを、全て立ち退かせるのは至難の業です。
とはいえ、チャツウッドなどに比べれば、パラマタはまだ中心地に空き地が多く、開発余地がやや残されているのが救いではあります。あと、中心オフィス街が手狭になった際、その南、数百mの地点にある「パラマタ・オートアレー」(シドニー最大の自動車ディーラー集積地)周辺を再開発して、「新パラマタ市街地」として整備する話もあるそうです。将来、「シティと天下を二分したい」ならば、そこまでやらないと駄目でしょう。
新鉄道計画の頓挫
パラマタは現在、「シティレール」(NSW州鉄)の経営する鉄道Western Lineによりシティと直結していますが、その他に、チャツウッドとの間を結ぶ新鉄道Chatswood-Parramatta
Rail Linkが以前から計画されており、当初は2010年に全線開通という話になっていました。この鉄道は、「北の副都心」チャツウッドと「西の副都心」パラマタ、その間にあるハイテク地域・ノースライドを鉄道で結ぶ、ビジネス・通勤路線としての役割が期待されていました。
ところが、この計画がいろいろな要因で暗転に暗転を重ね、ついに2003年、NSW州の与党・労働党政府は、新鉄道のパラマタまでの延伸を無期延期しました(詳細)。その結果、当鉄道の路線は当面チャツウッド−ノースライド−エッピングまでの区間に限られ、エッピングからパラマタまでの区間は凍結されることになりました。
このニュースは、パラマタのビジネス界、行政、住民に、大きな失望と怒りをもたらしました。いま振り返ると、凍結を決めた州政府のやり方は稚拙でした。つい数ヶ月前まで、「2010年度の全線開通に向けて順調に工事が進んでいる」と言っておきながら、いきなり手のひらを返すように凍結(実質的に中止)を決めたわけですから・・・パラマタ市議会と商工会は、「パラマタまでの延伸を勝ち取るまで断固戦う!」と宣言して、ロビイング含め多彩な活動を展開しています。とはいえ、これはパラマタのビジネス発展にとって、実に痛いニュースでした。
まず、新鉄道の頓挫が何を意味するかといえば、パラマタが最大最強のライバルであるノースライドに対して、交通面での優位性を失うということです。ノースライドには新鉄道が通り、パラマタには通らないわけですから・・・その結果、一部投資家がパラマタから逃げ出し、それがチャツウッドとノースライド、エッピングに向かう、という現象さえ起こりました。
私も、パラマタ住民、そして納税者としてこの決定に大きな憤りを覚えた一人です。いや憤りを通り越して、州政府の余りの無能ぶりに呆れ果てました。この新鉄道は、単なる通勤鉄道ではありません。シドニー都市圏の主要副都心を鉄道で結び、それらを有機的に結びつけて、都市圏全体の機能をインテグレートするためにも是非とも必要なものです。言い換えれば、「シドニー北部の頭脳資源」と、「シドニー西部の人口資源」を結びつける戦略的鉄道であるはずです。
この都市政策上明らかに必要なインフラさえ整備できない、NSW州の政治・行政能力とはこの程度のものなのでしょうか?与党・労働党政府というのは都市政策において正しい優先順位をつけられない、阿呆の集まりなのでしょうか?予算状況が厳しいのは分かるけど、それなら無期凍結ではなく数年間の延期にするべきだった。必要なインフラは時間がかかっても整備するという姿勢を見せて欲しかった。でも彼らがやったことは、州民の3人に1人、人口200万を擁する西部シドニーの住民に対して数年間にわたってウソをつき続け、最後の最後で裏切った・・・その不誠実のツケは次の選挙で必ず支払うことになるでしょう。
ちょっと感情的になってしまいましたが・・・でもこの決定にめげることなく、パラマタの政治・実業界のリーダーたちは、来るべき市街地再開発(Civic
Place)に希望を托し、Parramatta
Firstという、50万ドル以上を投じた都市マーケティング戦略も継続し、この地により多くのビジネスを呼び込もうと精力的に努力しています。
実際、シドニー副都心を目指す各カウンシル(市役所)のうち、いま一番頑張っているのはパラマタでしょう。市のホームページを見比べてみると、意気込みの違いが一目でわかります。
ウィロビー市のホームページ(チャツウッドがある)
ライド市のホームページ(ノースライドがある)
パラマタ市のホームページ
ご覧の通り、トップページで「ビジネス」を思い切り前面に出しているのはパラマタ市だけです。Parra
Businessのコーナーでは、パラマタでのビジネス立地を考えている企業、個人、投資家向けの情報が発信されています。もっとも、ウィロビー市のトップページにもFor
Businessという項目がありますが、パラマタ市と違って行政手続き的な情報しか提供されていません。
私は、パラマタのような都市が好きなのです。ウィロビー市やライド市のように、環境や暮らしを前面に押し出す都市も悪くありませんが、でもパラマタのように「食べていくことに一生懸命になっている」都市により親近感を覚えるのです。そういえば、私の地元・千葉県柏市もそんな街でした。柏は、東京近郊のベッドタウンでありながら、常磐沿線随一の商都として発展してきました。商都・柏の地位を守り、より発展させるために、柏商工会議所を中心に、周辺市町のどこよりも詳細な産業データを取り、市内の事業者に対して幅広い、きめ細かい支援活動を行っています。私はそんな街に育ちましたので、パラマタについて調べれば調べるほど、柏と通じるものを感じ、より愛着を抱いてしまうようです。さらに言えば、私にとってパラマタを愛することは、「柏の人間」としてのプライドとこだわりを持って生きることに直結するのです。
最後に、パラマタにとって明るいニュースをひとつ。ここ数年、パラマタのオフィス需要は順調に伸び続け、2001年以来、シドニー圏で最低のビル空室率を誇っています。ノース各都市が軒並み10%以上の空室率に苦しむのを横目に、パラマタの空室率は目下5〜6%と、「ほとんど空きなし」の活況を呈しています。パラマタのオフィスビルブームは、2006年頃にさらなる盛り上がりをみせ、各企業に選ばれるオフィス街になる、という予測もあります(詳細)。将来が楽しみな街です。
パラマタは、オーストラリアで二番目に古い都市です。1788年、英国人がオーストラリア大陸に初めて入植した際、すでにジョージ・ストリートやフィリップ・ストリートなど、パラマタのメインストリートがつくられました。それから216年、パラマタの街は紆余曲折こそあれ、一度も寂れることなく、常に栄え続けてきました。この街の発展を根本のところで支えるのは、そのユニークな歴史・文化と伝統であり、200年以上にわたって人々がここに集まり続けたという事実なのでしょう。パラマタの街に、「磁石のように人々をひきつける不思議な力」がある限り、将来の発展は半ば約束されたようなものなのでしょう。
パラマタ・アズ・ナンバーワン・・・パラマタがシドニー圏の副都心としてトップの座を確かなものにするその日まで、2002年に私がこの地に家を買った、その選択が間違いではなかったことが実証されるその日まで、私は熱い声援を贈り続けようと思います。
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