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シドニー日記・職業生活編第5回 (2000年9月9日)

職場の風物詩  

 早いもので、シドニーで就職してからもう一ヶ月が経ちました。今のところ、仕事ははっきり言ってとても気楽です。最近は朝9時に出勤して夕方6時に退社する毎日。その間、過度なプレッシャーにさらされることはありませんし、自分のペースでまじめに働いていれば、やるべき仕事はほとんど片付いてしまいます。そのうえ、ランチタイムには一時間たっぷり休憩を取ってます(たいてい森を散歩してます)。こうしたのんびりした仕事のリズムが、とても気に入っています。

 今回は、こうした牧歌的なオージー職場の風景を紹介していきたいと思います。

1.アフタヌーン・ティ

 我が職場を語るに欠かせない風物詩が「アフタヌーン・ティ」です。これは、毎週金曜日の午後3時半から30分間、チーム全員(20数名)が職場の一角にあるテーブルに集まり、皆でお菓子をつつきながらお茶するというものです。お菓子といっても、さすがに20人以上が食べるものだから分量は膨大だし(大きな買い物袋2個位になる)、種類もフルーツあり、ケーキあり、チョコレートあり、コーンチップありとバラエティに富んでいます。

 これを調達するために、チームから2名が「買出し当番」として毎週任命されます。彼らは職場から歩いて5分の小さなスーパー(雑貨屋に限りなく近い)に買出しに出かけるわけです。予算が決まっていますから(15ドル)、その範囲内でどれだけ見栄えよく、美味しいものを買えるかが、腕の見せ所になるわけです。だから結局、「ティ」といってもお茶がメインでなく、あくまでお菓子がメインなわけで、お茶の方は皆安物のリプトンのティーバッグあたりで済ましています(このあたりの質素さがオージーらしくて好きです)。

 彼らはこのアフタヌーン・ティに並々ならぬ情熱を燃やしているらしく、どんなに忙しくてどんなに納期が迫っても、アフタヌーン・ティだけは絶対に欠かしたことはないそうです。アフタヌーン・ティが終わるのが午後4時過ぎですし、この日は皆5時頃には帰ってしまいますので、実質的な仕事はアフタヌーン・ティまでに終わらせて、その後はリハビリの時間みたいなもんだと皆考えているようです。

2.フェアウェル・パーティー

 もう1つ、風物詩として欠かせないのがフェアウェル・パーティー(お別れ会)です。転職が激しいこの国では、チームの仲間が頻繁に会社を去って行くわけですが、その時は必ずといっていいほどレストランを借りきってお食事するわけです。これが実に気合が入っていて、勤務時間中に2時間位の長いランチを取り、ビールなどもふるまわれるわけです。私は律儀だから、ビールが出れば必ず飲んでしまいます(単に飲んべえだからかもしれない)ので、「マナブはパーティーで必ずビールを飲む男」として、ちょっと有名になったりしています。

 皆、ビールを飲んで気持ち良くなった後でまた午後の仕事にとりかかるわけですが、ここで問題は、フェアウェル・パーティーはたいてい金曜日に行われるということです。金曜日といえばアフタヌーン・ティがあり、彼らはこれだけは絶対に欠かしませんから、下手すれば金曜日の午後は、12時から2時半までフェアウェル・パーティー、3時半から4時までアフタヌーン・ティと行事が目白押し(?)になり、チーム全員、仕事が全然手につかないという状態になったりします(もっとも、行事は任意参加だから、客先との関係で忙しい人は参加しなくてもいいわけです。とはいえ、大多数は両方参加しているようです。正直言って、すごく牧歌的な職場だと思います。)

 お別れ会と言っても全く形式ばったところがなく、各自好きな席に座って友人と談笑しているだけでパーティーが終わってしまったりします(上司のスピーチなどほとんどない)。去っていく仲間には皆のメッセージを書いた色紙の他、金一封(1万円位か)、そして安物のチョコレートなどが贈られます(このあたりの組み合わせの感覚が、私にはよく分かりません)。

 私がこの会社に入ってから1ヶ月間に、すでに2回もフェアウェル・パーティーが開かれました。恐らく、今月も、来月も開かれるのでしょう。ここは転職が当たり前の世界だから、送る側も送られる側も、悲壮感なんてかけらもなく、あっけらかんとしています。

3.初めて日本語を使った日

 全体的にのんびりした我が職場にも、当然ながら客先との関係があります。お客さんから、「今日中になんとかしてよ」と言われれば、我々としても要望には応えざるを得ないわけです。

 昨日は日本から緊急の問い合わせがあり、それを巡って私の日本語能力を発揮する場がついに訪れました。私がこの職場で英語以外の言葉を使ったのは入社以来初めてのことです。

 事の顛末はこうです。木曜日のお昼ごろ、日本の人事部よりメールで緊急の問い合わせがありました。私たちが開発、提供したソフトウェアのエージェントという機能が動かなくなってしまい、日本側ではその対処に困っているようでした。我々が原因を調査したところ、アメリカのアトランタにある部署が、何かの手違いでエージェント機能を扱える人のリストを書き換えてしまったことが原因だということが分かりました。当然、アトランタにメールその他で緊急連絡を取り、リストを元に戻すようにお願いしたのですが、待てど暮らせどアトランタ側から返事が返ってきません。

 そこでアトランタが対処するまでの暫定措置として、日本にあるシステム部署のWさんという方にお願いして、エージェントリストを2〜3日間だけ書き換えてもらうことを考えました。金曜日の午前中、当社の担当者(オージー)が日本の人事部の方に何度か電話連絡したようなのですが、相手側は英語がよく分からないらしく、意味が伝わっているかどうか自信がない、逆に「早く何とかしてよ」と催促されてしまい、途方に暮れているところに、「そうだ、あいつに頼もう」と、つい一ヶ月前に入社した私に白羽の矢が飛びました。

 私の役目は、システム部署のWさんに、私たちの考えている暫定措置の内容を、日本語で正確に伝えるということでした。やってみたら何のことはない、「どのデータベースのどの部分に誰々の名前を追加してください」の一言で済みました。時間にして2分くらい。でも、こんな簡単な内容であっても、万一手違いがあれば全世界に迷惑をかけてしまいかねないことだから、正確に伝えなければならない。その際、英語と日本語という言語の違いは決して馬鹿にできません。

 私たちは全世界のシステムサポートを担当しているわけで、その中には当然、非英語圏最大最強の経済規模を持つ日本も含まれているわけです。でも、我々のチーム20数名のうちで日本語ができるのは私だけですし、オーストラリア全体で8000人いる社員のなかに、日本人らしい名前は数える程しかいません(その代わり、中国人、韓国人、ベトナム人らしき名前は掃いて捨てるほどいます)。オーストラリアは、大抵のIT多国籍企業で日本と同じ「アジアパシフィック地域」に分類されていて、日本とのつながりは特に密接ですから、日本のIT技術者にどんどん来てもらって、日豪の橋渡しをしてもらいたいというのがオーストラリアIT企業の本音なんだと思います。

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