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「勝つ移住」のすすめ〜後編(2002/9/2)


 前編では、「勝つ移住」(職業的・経済的な成功を伴う移住)の重要さについて述べてきました。後編では、「勝つ移住」を実現するために何が必要か、私自身このテーマにどう取り組んでいくのか・・・を中心にお話しさせていただきます。

 今回は結論から先に言ってしまいますが、「勝つ移住」を実現するために必要なものは、「生き方99%」と「テクニック1%」だと私は考えています。たとえていえば、「勝つ移住」という料理をつくるための食材が「生き方」、スパイスが「テクニック」のようなものです。皆様もご存知のように、料理というものは、食材が良くないと話になりません。いくらスパイスが優れていても、食材がダメなら大した料理にならないのです。逆に、食材が優れていれば、余程アホなスパイスを使わない限り、それなりに美味しく、栄養価も高いものができるのです。話がズレましたが、要は「勝つ」ためには生き方が何より重要で、テクニックはニの次だと思うのです。

 拙著にオーストラリアIT移住マニュアルというのがあります。これは豪州へIT技術者としての移住を希望されている方を主な対象とする、一種の「勝つ移住」実践ガイドのようなものです。しかし、その内容をよく理解し、着実に実践しただけで「勝てる」のかというと、それは違うと思います。なぜなら、私が書いた内容は職歴の積み方、履歴書の書き方、応募のやり方、面接の受け答え・・・といったテクニック、ノウハウの類に過ぎないからです。それは、私が「勝つ移住」を実現するために必要だと考えていることのわずか1%に過ぎず、しかも、このテクニックはIT技術者にしか通用しないものです。逆に、残りの99%を占める「生き方」に関しては、職種、年齢、性別を問わず誰にでも通用するものです。そこで今回は、「勝つための生き方」について、思うところを書いてみたいと思います。

そもそも、生き方って何・・・

 生き方とは、人間が自分のかけがえのない一生をいかに生きるか、何をしたいのか、どんな人間になるのか、誰とどんな関係をつくっていくのか・・・といった一大課題に取り組む上での「態度」および「選択・行動のパターン」だと私は考えています。

 生き方というものは、ある意味、これまで自分が行ってきた選択の産物ですから、一朝一夕に変えられるものではありません。例えば、私の好きな挿話にこんなのがあります・・・・・今年6歳になるススム君は自分の背が低いことをずっと気に病んでいました。でも「ボク小学生になったら背がいっぺんに高くなるんだ!」と信じて、小学校の入学式をずっと心待ちにしていました。そして、いよいよその日が来ました。ススム君は朝早起きして、家の柱で自分の背をはかってみました。そしたら、昨日と全然変わってない。「え、どうして???」ススム君は泣きそうになりました・・・・・ちょっと脱線しましたが、要は「ススム君の背が小学生になったら一気に伸びる」わけじゃないのと同様に、人間の生き方も一夜漬けで構造改革できるものではありません。

 でも長い目でみれば、自分の生き方は「自分の意志で自由になる」ものです。生き方を変えたいと真剣に願い、強い意志を持ってそれに相応しい行動を取り続けるのであれば、一朝一夕とはいかなくとも例えば数年後に、現時点の自分とはかなり違った人間(生き方という意味で)になることは十分可能です。自分の生き方を変えることは、神様が人間に与え給うた能力のひとつであるようです。

常にベストの生き方を目指そう

 またたとえ話になりますが・・・江戸時代初頭、宮本武蔵という剣豪がいたのを皆様ご存知でしょう。彼は史上最大の剣豪といわれただけでなく、絵画の面でも傑出した才能の持ち主だったそうです。鑑賞者によれば、武蔵の絵は「剣と一体化している」・・・つまり、彼の剣に宿っている、人並み外れた「気迫」が絵を通じても伝わってくる、例えば天地のあいだに浮かぶ一羽の雁を描いても、それが歴とした生命を持って躍動しているんだそうです。それは、武蔵の持つ魂というか気高い精神のようなものが、時には剣として、時には絵というかたちで現れてくるからでしょう。イタリア・ルネサンスの英雄、レオナルド・ダ・ヴィンチは芸術家として、発明家として、学者として・・・多くの領域で偉大な業績を残し、おそらく世界最大の天才といっても良い人物でしょうが、彼のこの八面六臂ぶりもおそらく、彼の内面に宿るもの(魂や精神)が、時には芸術、時には技術というかたちで現れてくるのだと思います。

 私は武蔵やダ・ヴィンチほど、人並み外れた魂を持って生まれついてこなかったのかもしれない。でも、一寸の虫並みに五分の魂でもあるのなら、それを最大限引き出しながら生きていきたいと思っています。それを自分の言葉でいえば、どんな環境にあっても、自分にとってベストの生き方をする、ということです。ベストの生き方とは、日々、自分の持てる100%の力と知恵、誠意を出し切って、他でもない自分自身のために、最高の生き方をしてあげるということです。

 オーストラリアへの移住希望者のなかには、「日本の暮らしに嫌気がさした」、「だから移住したい」という人が結構います。私がそういう方々にお聞きしたいのは、「あなたは日本で過ごす一日一日を、ベストの自分で生きているのですか?」ということです。日々ベストの自分で生きて、万策尽くしたにもかかわらず、それでも駄目、死んでも耐えられないというケースも可能性としては考えられますが、私はこれまで移住相談等で何百人もの方とお話ししてきて、そういう方にいまだかつてお目にかかったことがありません。

 でも、先ほど申し上げたように、人間の生き方というものは一朝一夕に変わるものではありません。もし日本で嫌な日々を送り、それに対して何ら効果的な行動をとれないでいるのならば、どの国に移住しても基本的にはその延長線上の日々が待っていると思ってください。なぜなら、彼らは日々の嫌な暮らしを克服できない自分自身で生きているからです。そういう自分を変えられない限り、「勝つ移住」の実現は難しいとお考えください。「オーストラリアで暮らせたら別の自分になれる」みたいな考え方は、例えばススム君が「小学生になったら背が伸びる」と言うのと同じ、幼稚な発想と言わざるを得ません。

 つまるところ、移住前日本でどんな生き方をしてきたか、それが移住後の暮らし方を根本的に左右するのです。日本でベストの自分で生きてきた人は、移住後も本領を発揮できる可能性が高いのです。また、そういう人は、日々の生活が嫌でたまらないとか、逃げたいとは普通言わないものです。もっと前向きな気持ちで、ワクワクしながら生きているものなのです。

心の力で閉塞感を克服しよう

 いま日本で暮らしている人で、閉塞感を感じておられる方は少なくないでしょう。長い不況と生活不安、犯罪の増加、相次ぐ汚職・・・巷には暗いニュースがあふれ、そんな状況で閉塞感を感じてしまうのは、人間の心理として自然なことです。でも私は、こんな時代だからこそ、自分の「心の力」で閉塞感を克服してしまうことをおすすめします。

 そもそも、閉塞感という心理状態をつくりだしているのは、他の誰でもない、マスコミでも政治家でもない、自分自身の心なのです。そして自分の心は自分の意志でコントロールできるはずです。ということは、自分の心の持ちようによっては閉塞感が見る見るうちにゼロになり、突然霧が晴れたように前途洋々の未来が広がっているように見える・・・そんな心理状態をつくることも可能なのです。

 だいたい、閉塞感を感じること自体、自分の心のどこかに受身の部分があるのだと思います。例えば、「暗いニュースばっかりで気が滅入る。少しは明るいニュースを報道してくれないかな?」と言う人って、結局明るいニュースを受身で探しているのです。身近に良いニュースがなければ、自分でつくればいいじゃないですか?それは、何も全国ネットで中継されるようなものである必要はなく、自分自身と周りの人々を明るくさせるような、ささやかなものでいいのです。

 これは私の持論ですが、自己ベストの生き方を日々続けていれば、明るいニュースは結果としてついてくるものです。そして自分の手で明るいニュースをいくつもつくっていけば、そのうち閉塞感などまるで感じなくなってくるのです。そりゃそうでしょう。自分の周りは明るいニュースばっかりなんですから、どれだけ世の中暗くても関係ない・・・だいたい、今の日本よりずっと悲惨な状況のなかで生きてる人など世界中にいくらでもいるのです。その中にも、明るく前向きに生きてる人はゴマンといる・・・要は自分の心の持ちようなのです。閉塞感なんてつまらない。そんなのは心の力で克服してしまいましょう。

「個」をパワーアップしよう

 海外へ移住すると、常に個人としての真価が問われます。そりゃそうです。移住先の人間は普通、自分の出身大学とか、肩書きについて全然知らないんですから。極端な話、東大卒だろうと、高校中退だろうと、相手にとっては同じ「日本出身の移民」にしか見えません。ですから、例えば「IBM社員のスズキマナブ」とか「一橋大学出身のスズキマナブ」ではなく、「個人としてのスズキマナブ」として相手に接していくわけですし、相手も個人としての自分を見ているのです。

 日本の社会は、以前ほどではありませんが、まだまだ肩書きがモノをいう部分が大きいと思います。移住すると、その前提がまるっきり崩れるのですから、仮に「俺って肩書きで世の中渡ってるよな」と思っている方は、「肩書きをとりはらった後、個人としての俺は一体どれほどのものだろうか?」と一考してみることをおすすめします。

 移民という立場になると、「個人として生きる力」が移住生活の成否に直結します。それはもう、残酷なまでにはっきりと、目にみえるかたちで現れてきます。完全に実力の世界です。したがって、個人として生きる力と、その源泉となるコミュニケーション能力(語学力を含む)とか、職業上のスキル、思考力、情報収集力、行動力などをパワーアップすることの重要性は、いまさら言うまでもないでしょう。

なりふり構わぬ行動力をつけよう

 前回も述べましたが、移民は現地出身者に比べて社会的、言語的なハンディを負っているものです。だからこそ、あらゆる機会をとらえて、いろんなことにチャレンジしてみたい。それも人任せ、業者任せにせず、直接自分の手を汚してやってみたいものです。特にこれから豪州の永住ビザを取得される方は、時間が許せばエージェント任せにせず、自分で手続を全部やってみることをおすすめします。これは、別にエージェントの商売の邪魔をしたいわけじゃなくて、ビザ申請の手続自体が、今後豪州で暮らす上での良い予行演習になるからです。実際暮らしてみると分かりますが、銀行口座をつくるにも、健康保険に加入するにも、不動産や車を買うにも、膨大な英文資料と格闘してそれを理解しながら、分からなければ担当者を質問攻めにしながら、自分の判断で賢い選択をしなくちゃならない。移住生活ってそんな七面倒臭いことの連続なんです。

 そこでモノをいうのが「なりふり構わぬ行動力」です。世の中には、「頭でじっくり考えてから行動に移す」タイプと、「頭より先に身体が勝手に動いてしまう」タイプの二種類がいるようです。どちらがいい、とは一概に言えませんが、移住後の数年間は、後者のタイプの方がうまくいくことが多いように思います。なぜなら、移民は社会の新参者なのですから、実際に動いて、動きまくって、手探りを続けて、それでようやく生活のコツがつかめるのです。日本で馴染んだ常識や思考形態でいくら熟考しても、豪州社会の現実に裏切られることが多いのです。

 「聞いてみるのと、やってみるのでは大違いの豪州」といわれるように、この国では担当者によって言うことがバラバラだったり、とんでもないアホが担当者面して堂々と嘘をつくことも珍しくありません(悪意があるんじゃなくて、単に基本的な業務知識を知らないのです・・・)。メビウスの環みたいに情報が錯綜するなかで、一体何が事実なのか、新参者がそれを突き止めるためにはとにかく動きまくって、動きながら考え、動きの中から勝機を見出すアプローチが必要となるのです。とにかく、行動力あるのみです。

勝つ移住と私の使命

 最後に、「勝つ移住」というテーマに、私がどう関わっていきたいかをお話しします。

 「勝つ移住」という考え方は、もともと私個人の心の奥底に、言葉にさえならないかたちで存在していました。今から2年ちょっと前、移住先シドニーへ向かう飛行機の中でただ漠然と、「オージーライフを楽しみながら、キャリアも伸ばし、お金も稼ぎたい」と考えていました。でも、それが果たして実現できるかは全く未知数でした。それが、移住2ヶ月後に希望通りの就職を果たし、1年後にロータスノーツの技術者資格に合格し、2年後にマイホームを購入し・・・というかたちで、着実に目に見える成果が上がってきました。私がいま、ひとさまに向かって一丁前に「勝つ移住」を吹聴している背景には、そうした実績に裏付けられた自信があります。

 その間、私はホームページで情報発信し続けました。その間に来た移住相談メールのなんと多かったこと!多い時は毎日のように送られてくるメールの返事に四苦八苦しながら、日本人のオーストラリア移住熱というものを肌で実感しました。同時に、彼らが移住後の職や生活、将来設計について真剣に考えているのにも関わらず、その判断材料となる情報に飢えていることもよく理解できました。「Manachan's Worldに出会って、はじめて移住後の職と生活がイメージできました!」という趣旨のコメントもたくさんいただきました。彼らはもちろん、豪州移住に関する市販本もある程度読んでいます。が、それらは移住後の職と生活に関して言えば、納得できる内容ではなかったと彼らは言います。

 彼らはもはや、移住後の職やキャリアについてはロクに触れずに、ただ「オーストラリアのライフスタイルは素晴らしいっ!」と絶叫したり、「給料は日本の何分の1になったけど、生活の質とゆとりをエンジョイしていま〜す」と自己満足してるような内容の本には、決して納得しないのです。彼らが求めているのは、移住後の職と暮らしをどうするのかという、責任ある生活者なら当然持つべき疑問に、きちんと答えてくれる本であり、情報なのです。

 彼らは「勝つ移住」を求めている!!私がそう思った瞬間、「勝つ移住」というコンセプトは私一人のものではなく、このホームページの読者との間の共通言語となりました。そうなった以上、私の使命は移住を目指す読者の皆様とともに、「勝つ移住」を実践することなのだと、考えるようになりました。

 「勝つ移住」とは、特に目新しい概念ではありません。これは生活内容の向上を目指す移民として当然のことであり、洋の東西を問わず、時代を問わず、海外移住のグローバルスタンダードのような考え方だと思います。でも、いま日本からオーストラリアに移住する主な動機が、お金では測りにくい「ゆとり」とか「生活の質」とか、とにかく「ロマン」の領域になっちゃってるせいか、あまりロマンチックでないお金や職業の側面を正面切って取り上げる移住論があまりに少ないのです。経済生活にこそ暮らしのリアリティがあるはずなのに、それを直視して、生活者の目線に立って情報発信する人が非常に少ないのです。

 これは悲しいことです。移住に「勝つ」ための情報の不足は、とりもなおさず、渡豪後の職に関して明確なイメージを持たずに移住し、その結果「勝て」ず、失意のまま帰国する人を量産することになるのです。そういえば先日、「Manachan's Worldに出会わなければ、自分は今ごろロク生活設計も持たずに、とりあえずワーホリで渡豪、ビザスポンサーが見つからず失意の帰国、帰国後はロクな仕事がない・・・というパターンに陥っていたかもしれません」というメッセージを書いてくれた人がいました。私がいま「勝つ移住」を強調せざるを得ない理由が、ここにあるのです。

 最後になりますが、私は一人でも多くの移住希望者が、できるだけ早い時期に「勝つ移住」という考え方に出会い、自分の移住後の職と生活について明確なイメージをもって、移住計画を立て、自分の望む生活水準を自らの手で勝ち取るようになることを、切に望みます。また、私も経験者として、そのための支援は惜しまないつもりです。


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