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日豪福祉国家クイック比較(第一版、2000/6/29)
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移住して1ヶ月が経ちました。私はこの国に来てまだ定収入がないので(単発アルバイト収入のみ)、一時的ですが奥さんの「ヒモ」状態になっています。でも幸いなことに、無為徒食のパラサイト野郎でも役に立つことはありました。私に割り当てられた仕事は、我が家100年の大計(?)である民間健康保険(プライベート保険)の調査です。
オーストラリアでは、来たる7月1日に税率10%のGST(消費税)が施行されるため、官民あげての大騒ぎになっていますが、それと同時にLifetime Health Cover制度が発足します。この制度は、政府が運営するMedicare(日本の健康保険のようなもの)制度の負担を減らすため、民間企業が運営するプライベート保険に乗りかえさせることを目的とした一連の措置です。制度の要点は、@プライベート保険に乗りかえれば政府が保険金の30%を補助する、A7月1日を過ぎてプライベート保険に加入した場合、30歳以上の人は年齢に応じて保険金を上乗せして支払わなければならない(例、40歳なら20%増、65歳なら70%増)、Bプライベート保険に加入しない場合、個人年収5万ドル以上、夫婦合算年収10万ドル以上の高所得者層は、健康保険負担金(Medicare Surcharge)の1%を上乗せして支払わなければならない(要するに夫婦で年間1000ドル以上の追徴金)、というものです。
参考)現在為替レートは1豪ドル=約63円。ですが生活実感としては1ドル=100円位です。
例えば追徴金が1000ドルということは、ちょうど10万円とられるイメージになります。
我が家では、追徴金が恐いので6月末までにプライベート保険へのくら替えを決意したわけですが、どの会社のプライベート保険商品を選ぶのかという作業が実に難航を極めました。何しろ、星の数ほどある保険会社が似たような商品を沢山出していて、しかもすごくミクロな領域で差別化しているわけですから、地元オージーでさえ頭を抱えてしまうほどなのです。例えば、この商品は妊娠促進手術をカバーしていないとか、この商品なら理学療法(何じゃそれ?)の最低カバー率が70%で免責額は250ドルとか。果たして移住直後の私は見慣れない医療用語(PeriodonticsとかOsteopathicとか)と日々格闘することとなったのです。そもそも私は病気にほとんど縁がない人間なので、この種の単語は日本語で言われても分かりません。
こういう面倒臭い作業をしているうちに、ある考えがふと頭をよぎりました。「果たして、この国は先進福祉国家なのだろうか」と。オーストラリアは老人や弱者にやさしい福祉国家というイメージが日本国内では普及していますが、実際のところどうなのか。現地生活者の視点から考えてみようというのが、今回の企画の趣旨です。
前置きはこれ位にして、私たち一般サラリーマンにとても身近な年金、健康保険、失業保険の3項目を中心として、「日豪福祉国家度クイック比較」をやってみましょう。なお、比較にあたっての重要なポイントは、@制度の設計理念(どのような考えをもとに制度が組み立てられているか)、A給付水準(実際に必要額が保障されているか)、B制度の使いやすさ(必要とする誰もが実際にサービスを受けられるか、制度が単純明快で分かりやすいか、事務手続が煩雑でないか)です。
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1.福祉制度の概観 |
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オーストラリアと日本では、福祉制度の設計理念が根本的に違うものが多いです。オーストラリアの制度は、「福祉サービスを必要としている人に、必要額を保障する」という考えをもとに組み立てられているものが多く、一方日本の制度は、「より多く負担した人に、より多く保障する」というシナリオが多いようです(もちろん例外はあります)。例えば国民年金。日本では25年間以上積み立てないと受給資格がないとか、現役時代に負担した額が多いほど老後に受給できる額が多くなるということになっていますが、オーストラリアでは現役時代に負担した金額や年数に関わりなく、ある年齢(例えば65歳)になった時点で収入や資産が少なければ受給できます。理念だけを見ると、オーストラリアの方が本来の福祉制度のあり方に近く、一方日本の制度は民間保険会社の代行を政府がしているような印象をうけます。
ただし、これだけをもってオーストラリアが日本よりも先進的な福祉国家と即断することはできないと思います。実際に支給される額が物価水準に見合ったものであるか、また制度が使いやすいものであるかどうかも考慮しなければなりません。こうした点については、オーストラリアの福祉は日本以上に問題を抱えているように思います。例えば、オーストラリアでは給付水準が必要額に遠く及ばなかったり(例えば、失業保険に付属する医療費支給は週2.7ドル、一方薬の単価は通常10ドル以上)、病院によって健康保険で100%カバーされるところとそうでないところがあったり、手続きが日本以上に煩雑で貴重な時間を無駄にしたりします。実際生活してみると目につくのはこうした面なので、率直な実感として「この国のどこが先進福祉国家なんだろう」と疑念を抱いてしまう局面も少なくありません。
高齢化社会の進展とともに、福祉水準が長期的に削減される傾向にあるのは日豪ともに同じですが、実感として、オーストラリアの方が早いペースで福祉が切り捨てられているように思います。例えば、この国に1980年前後に移住してきた方の話を聞くと、移住一週間後に失業手当と住居手当が支給されたとか、大学の学費がタダだったとか、私たち新しい移住者にとっては夢のような話が多く出てきます。オーストラリアが福祉国家だという定説は、こうした人たちによって作られたのでしょう。しかし、現在では移住後二年間はメディケア(健康保険)以外の社会保障は一切受けられませんし、大学の学費も結構かかりますし、健康や老後の生活を守るためには多くの人が民間保険会社に頼らざるを得ません。堂々たる福祉国家だった古い良き時代はもはや過ぎ去ったというのが実状のようです。
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2.年金制度 |
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日本の年金制度は、自営業者等が加入する国民年金とサラリーマンが加入する厚生年金の二本建てになっていますが、オーストラリアでも同様に、国営の年金システム(Aged Pension)と民間保険会社が運用するスーパーアニュエーション(Superannuation、以下スーパーと略)の二本建てになっています。年金制度を概観した場合、オーストラリアの方が老後の保障という意味でも選択の余地が多いという意味でも合理的な制度だなあと感心します。
サラリーマン以外の自営業者等で比較すると、老後の保障という観点でいえばオーストラリアの方が安心できる制度だと思います。例えば、日本の国民年金は25年以上積み立てなければ受給できませんが、一方オーストラリアの年金は10年以上オーストラリアの市民、または永住者を続けていれば受給資格が発生するので、極端な話10年間失業者を続けていても受給できます。その点、オーストラリアの方が社会的弱者にやさしい制度と言えます。また受給水準は日本の場合平均収入の20%程度(満額で月67,000円)ですが、オーストラリアでは25%程度(単身で月800ドル、夫婦で月1330ドル)が保障され、日本よりやや手厚いようです。ただし注意しなければならないのは、オーストラリアでは老後になっても一銭も年金をもらえないケースがあることです。受給年齢(65歳)になった時点で収入や財産が一定額を超えると経済力があるとみなされ年金は受給できません。なお受給年齢は、1949年以降の生まれなら日豪ともに65歳です。
一方、サラリーマンの場合は日本の場合は厚生年金、オーストラリアの場合はスーパーで老後生活費がカバーされます。両者の最大の違いは、厚生年金は現役時代に給与から一定割合が天引きされ、老後に受け取る額は国が決める(確定給付方式)のに対し、スーパーは個人が現役時代に任意の額を積み立て、老後に受け取る額は積立額とその運用益で決まる(確定拠出方式)点です。これが意味するところは、日本なら現役時代にもらっていた給料水準によって老後の年金水準が決まるのに対し、オーストラリアでは現役時代の収入に関わらず、一生懸命積み立てることによって老後の年金水準を自分で上げることが可能です。両者良し悪しはありますが、選択の余地という点ではオーストラリアの方が合理的だと思います。
なお、日本には退職金制度があることを忘れてはなりません。この制度はオーストラリアにはないようです。日本の一部上場大企業の社員の場合、老後資金の一定部分を退職金で賄うことが可能ですし、これに加えて厚生年金も受給できるとなれば、スーパーしかもらえないオーストラリアのほとんどのサラリーマンより間違いなく豊かな老後生活が送れるでしょう(もっとも、手厚い退職金は今後期待できなくなるでしょうが)。
年金に絞ってみた場合、日本とオーストラリアの福祉水準のどちらが上かというのは難しい問題ですが、自営業者の場合ならオーストラリアの方が手厚く、大企業の社員なら日本の方が手厚く、私のように中小企業や外資系のサラリーマンの場合なら日豪大差はないといったところでしょうか。
高齢化社会が進展するとともに、年金制度の維持が難しくなるのはどの国も同じです。日本の若い世代の間では「自分たちは年取ってもどうせ年金などもらえない」という悲観論が多いですが、私の知る限りそれはオーストラリアでもほぼ同じようです。だからこそ、この国の若い人たちは不動産投資や株式投資にせっせと励み、自分の老後は国に頼らず自分でなんとかしようと思っている人が多いのです。
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3.健康保険制度 |
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医療費をカバーする制度として、日本には健康保険制度があり、オーストラリアにはそれによく似たメディケア(Medicare)という制度がありますが、両者を比較すると日本の健康保険の方がメディケアよりも適用範囲がより包括的で、便利で使いやすく、安心できる制度といえます。
例えばメディケアの場合、歯科と眼科をほとんどカバーしていません。そのため、虫歯になったら大変な額を負担することになります(先日私の妻が歯医者に行ってレントゲンを撮りキャップをはめただけで170ドルも請求されました)。また、メディケアの場合、政府の定めた治療基準額(Schedule Fee)と個々の病院が定めたそれとの差額(Gap)もカバーしていません。つまり、同じ内容、レベルの治療をうけても、病院によって健康保険で100%カバーされるところとそうでないところがあるわけで、後者の場合自分で差額を支払わなければならないのです。
また、健康保険の方が便利で使いやすい制度と思います。健康保険なら病院に行った時点で全部事務処理をやってくれますが、メディケアの場合病院でインボイスをもらい、それをメディケアのオフィスに持って行って精算しなければなりません。これが結構煩雑で、時間もかかります。
したがって、オーストラリア人がまともな医療サービスを安価に受けようとすれば、一人毎月最低50ドル程度を払ってプライベート保険に入らざるを得ないのです。無論、「俺は風邪しかひかないよ」と言いきれる人ならメディケアだけでも構わないでしょうが、皆なんだかんだ言ってもプライベートに入っているのが実状のようです。
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4.失業保険制度 |
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失業保険制度はオーストラリアの誇る「福祉国家の最後の砦」かも知れません。何しろこの国では、自己都合、会社都合を問わず退職すれば比較的すぐ(最低1週間、ただし最高で13週間)受給できるし、受給できる期間も限度が定められているわけではありません。シドニー近郊には、3世代も失業保険をもらいながら暮らしている人々の、悪名高いコミュニティがあります。
一方、日本の場合は自己都合の場合3〜4ヶ月待たないと受給できないわけですし、受給できる期間も数ヶ月、長くて一年という限度がありますので、この点についてはオーストラリアの方が日本より手厚いことは確実です。
一方、受給できる額は日本の方がはるかに上です。例えば税込月収30万円の平均的サラリーマンが失業した場合、日本で受給できる額は一日約6,500円(週45,500円)です。一方、オーストラリアの場合は収入に関わらず受給額は週166〜189ドルです。この水準は物価水準を考慮しても日本の3分の1程度です。シドニー在住なら家賃の支払いにも事欠いてしまいます(実際には家賃補助が出るのですが、この額はバブルの洗礼を受けたこの街に住むには少なすぎます)。
制度としてはオーストラリアの方がきめ細かい配慮がされているようです。日本の場合受給額は失業する直前の六ヶ月間の給料だけで決まり、その他の要因は考慮されませんが、オーストラリアでは自宅に住んでいるか賃貸住宅に住んでいるか、子供がいるかいないか等で受給額に差がつけられています。
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最後に |
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全体を概観して、現時点でオーストラリアと日本の福祉水準にそう大差はないというのが私の率直な実感です。但し、高給取りほどより有利になる日本に対し、オーストラリアは社会的弱者のケアという点で制度的に工夫されている面は多少あると思います。
最後になりますが、福祉を語るにあたって忘れてはならないのが「税制」です。福祉制度は「もらう側」と「払う側」があって初めて成り立つものなので、「払う側」のしくみ、すなわち税制を検討しないと方手落ちになってしまうからです。日豪の税制の比較については、次回に詳しくレポートいたします。お楽しみに。
「日豪税制クイック比較」を公開しました。こちらも併せてお読みください。
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