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オーストラリアIT移住マニュアル
--- (番外編) 悩み多き移住相談 (2003/1/29) ---


 オーストラリアIT移住マニュアルを発表してから、約1年半が経ちました。この間、本当にたくさんの方から移住相談のメールをいただき、私なりの方法論で一生懸命答えてきました。こうした移住相談のかなりの部分が、IT技術者としてオーストラリアに移住・就職を目指す方々からのものです。

 いちいち統計をとっていないので正確な数は分かりませんが、相談の数は着実に増えてきており、その内容も日に日に濃くなってきているというのが正直な印象です。しかし皮肉なことに、移住希望者の真剣さとは裏腹に、オーストラリアIT業界の景気は一向に良くなる兆しを見せず、求人状況も日に日に厳しくなってきているようです。特に最近は、余程経験を積んだ技術者でもフルタイムの仕事にありつくのは難しいとか、パートタイム職でさえも求人一人あたり10人も20人も応募してくるとか、そんなシケた話が、現場にいる私の耳にも届いてきます。

 いま当地のIT業界がどれほど景気悪いか・・・例えば私の勤め先IBM。この会社は業界の中では比較的業績も安定し、かなりマシな方なんですが、それでも今年度(2003年)昇給できる人は、全社員の約1割と言われています(なんと、当社には定期昇給システムがないのです!)。残り9割は給与据え置きか、或いは減給。下手すれば余剰人員として整理されるわけです。でも、給料が上がらないことを承知の上で、社員たちは積極的に動こうとはしません。余程能力のある人は別として、多くの社員にとっては、いま動いてもロクなことがないと分かっているからです。我が部署も、ここ2年近くほとんど正社員の出入りがありません。そして、海外出張や海外プロジェクトみたいな派手な話もほとんどなく、皆シドニーにへばりついて働いています。まさに、「鳴かず飛ばず」という言葉がぴったりきます。

 新聞の求人欄を見ると、2〜3年前と比べるとIT関連の求人がウソみたいに少なくなって、かえってケータリング業界とか建設業界の求人の方が多かったりします。そう、オーストラリア全体の景気は決して悪くないのです。世の中の景気は悪くないのに、我が業界の景気だけはやけに悪い。つまり物価だけは着実に上がってるのに、自分の給料は全然上がらない・・・というのは、精神衛生上あまりよろしいものではありません。そんな状態が、ここ2年ほど続いているのです(愚痴っぽくなってすみませんねえ・・・)。

 でも、いま正社員の座にありついているだけ、恵まれているってもんです。いま求職中の人は、本当に大変だと思います。IT技術者が余っている、という話は、一昨年の後半から新聞紙上を賑わしはじめ、その非難の矛先は、オーストラリア政府によるIT技術者優遇の移民政策に向けられました。それまで、IT技術者は同国の永住権を一番取りやすい職種と言われ、実務経験が2〜4年以上あれば、或いは実務経験ゼロでも政府指定の修士課程を卒業さえすれば、永住ビザ申請における職業点で60点満点が取れると言われていました。この条件は、他の技術系職種と比べても恵まれたものでした。私がオーストラリアIT移住マニュアルを書いたのも、この「古き良き」時代のことでした。

 しかし、政府の優遇政策によって、永住権取得を目指してIT系の大学で学ぶ人数も激増しました。その結果、労働市場にはIT技術者予備軍が大量に参入してくる、一方で業界が雇用の受け皿をつくれない・・・当然、技術者が余ります。それに従い、政府も従来の優遇政策を見直さざるを得なくなりました。そして2002年、同国の移民法はIT技術者にとってかなり厳しいものに変わりました。詳しい説明は割愛しますが、ビザ申請に必要な実務経験の年数が長くなったり、IT業界のかなりの職種が要求職リストから外されたり、審査期間が長くなったり・・・残念な話ですが、いまやIT技術者は、永住権申請や移住後の就職に必ずしも有利な職種とは言えない状態になりました。

 そんななかで、IT技術者として移住を目指す人々の相談が、日々私のメールボックスに届いてきます。厳しい状況を知りながらも、相談者を暖かく励ましつつ、返事を書いている私・・・決してウソ八百を並べてるわけではありません。いまはビザ申請も求人状況も厳しいんだよと、私なりにちゃんとお伝えしています。それでもなお、「こんなにも厳しく険しい道を、皆さまにおすすめしていいんだろうか?」と、自問自答することがあります。

 それでもなお、私が多くの方々にIT技術者としての移住をおすすめするのは、@如何なる職種であれ、専門的職業に就くこと、またはそのために努力することは、専門能力をつけずに歳を取るリスクに比べれば、はるかに割に合う話だと思う、A技術系の職種は、他の多く職種(営業など)と比べて、英語ネイティブでない人間が、ネイティブと互角に渡り合いやすい仕事だと思う、BIT技術者は、他の技術職(機械エンジニアなど)に比べて間口が広いと思う。例えば、文系の学問しかやったことのない人間が、新たにマスターしやすい領域だと思う・・・こんなもっともらしい理屈をつけて、「何だかんだ言っても、やっぱりIT技術者がおすすめなんだ!」と自分で自分を言い聞かせつつ、今日も返事を書いている私がいました・・・


 決してお世辞ではなくて、私は移住相談のメールを寄せてくる方々を尊敬しています。インターネットという膨大なサイバー空間からわざわざ私のホームページを見つけだし、忙しいのに丁寧に読んでくれる。そして全く面識もないのに、いきなり自分のプライベートまでさらけ出して、真摯な質問をぶつけてくる。これは、自分の人生を余程真剣に考えてなければ到底できないことだと思います。私が世の中で一番尊敬するのは、こういう「自分の人生に真剣に取り組む人たち」です。私と移住相談のメールをやりとりした方なら、行間に「尊敬の念」がこもっているのを読み取っていただけることと思います。

 私が尊敬する人たちだからこそ、私は彼らみんなに成功してもらいたい。すなわち、永住権を取得し、望み通りの就職を果たし、ここオーストラリアで専門職業人として充実した、経済的にも豊かな生活を勝ち取って欲しいと、真剣に願っています。但し、それを実現するためのハードルは、IT技術者に限っていえば、私が移住した頃に比べて数段高くなったことを、まず覚悟していただきたいと思います。

 私は正直言って、「時の運」に恵まれました。2000年5月という、オリンピック直前でIT業界が好景気に沸いた時点で渡豪し、移住後わずか2ヶ月でIBMにロータスノーツ開発者として就職できた・・・こんなに順調にいったのは、実力というよりむしろタイミングがよかったのだと思います。実際、オージーの同僚にも、「お前の就職は実にタイミング良かった」と言われたりします。仮に私が2年遅れて移住し、就職活動をはじめたとすれば、こんなに順調に就職できる自信は全くありません。

 これから移住を目指す人々、特にIT技術者に関していえば、「時の運」に恵まれない状態で移住するのだ、ということを肝に銘じた方がよいでしょう。私と同程度の経歴、能力を持つ人がシドニーで就職活動しても、2年半前の私よりもずっと時間がかかり、余分な苦労をするかもしれません。場合によっては、就職を諦める人、妥協する人も出てくるかもしれません。それだけ、ハードルが上がったのです。厳しい時代になったのです。

 ただでさえ慣れない異国での生活。定収入もなく、就職の見込みも立たず、貯金が日を追うごとに減っていく。場合によっては、いつまで合法的にこの国に滞在できるか分からない・・・私の身の回りには、そういう人が結構いますし、私に相談を寄せてくる人の多くが、移住後、そんな状態を一度は味わうことになると思います。そういう厳しい状況になった時、最終的にモノを言うのは、テクニックとかスキルみたいな話じゃなくて、むしろ「生きる力」とか、「生命の強さ」だと思うんですよね。

 「生きる力」というのは、別の文章にも書きましたが、例えばどんなに落ち込んでも自分自身を信じ、どんなに不安材料だらけでも希望を見続けられるとか、或いは自分とどんなに違った環境で育った人たちとも仲良くなれるとか、自分がこれまで全く未経験のことにも臆せずガンガン挑戦できるとか、どんなに言葉が不自由でも図太く自己主張できるとか、そのようなことを指します。言い換えれば、新しい環境や状況に適応するために、自分自身を柔軟に変化させていく力と、そのための精神的、身体的エネルギーを常に豊富に持っていることだと思います。

 ここまでくると、もはや精神論の領域になってしまいますが、海外移住というのは実際、途方もないエネルギーを使う作業なのですから、真面目に考えれば考えるほど、精神論の領域に踏み込まざるを得ません。海外移住、それは生きる力を鍛えるまたとない機会であり、また生きる力が全面的に試される場でもあります。生きる力、それこそが海外移住に絶対欠かせない唯一の資質であり、それに比べれば、テクニックやスキル、知識みたいなものは、ごく矮小なものに過ぎません。

 思うに、生きる力を豊富に持っている人であれば、どんなに不利な状況にあっても、どんなに時間がかかっても、必ずチャンスをつかみ、就職を勝ち取ってくれるものと信じます。実際、相談者のなかにも、「この人はすごい!彼(彼女)なら、移住しても100%安心して見ていられる」という人が時々います。彼らには、「先行き不安→精神が萎縮→身動きがとれない」なんていう甘ったれた心理サイクルは存在しません。先行き不安だらけでも、たとえ1%の勝機でもあれば、自信を持ってそこに斬り込んでいける人たちなのですから、極端な話、私が助言などしなくとも、自分の力で道を切り開いていけるでしょう。

 逆に、「この人はもっと生きる力を身につけた方がいいな」と思うこともあります。例えば、短いメールの文面に「不安」という言葉が二回以上出てくるような場合は、ある意味要注意だと思っています。そういう時は、「不安」を適切な情報提供によって解いてあげるとともに、彼(彼女)の心の奥底に眠っている「生きる力」を喚起させること、或いはその重要性に気づいてもらうこと、それを相談の主眼とさせていただいています。

 もちろん、生きる力というのは、一度二度のメールのやりとりだけでは身につくものではありません。本人がいろんな人生経験を通じて、時には痛い目にも遭って、その中で自己実現(自分のなりたい自分になる)を重ねることによって、徐々に涵養されるものです。またその過程では、周囲の暖かい眼差し、心の支えというものも必要になってくると思います。


 話は元に戻りますが、私はいま、IT技術者だけでなく、他のいろんな職種での移住を希望する方々からの相談を受けています。私はIT以外の職種のことになると、残念ながらかなりあやふやなアドバイスしかできませんが、実はITに関しても、テクニカルなアドバイスがなかなかできにくい状況になりつつあります。私が移住した頃と比べて、永住権取得にしろ就職にしろ、今では状況がかなり厳しくなり、「ITのマスターコースで学んで永住権取って就職♪」みたいな、「成功の方程式」がだんだん通用しなくなってきたからです。私自身、自分のテクニカルなアドバイスがどこまで有効なのか、正直言ってあまり自信がありません。

 そうなると、私の移住相談は必然的に、「こうすればうまくいく」みたいなハウツーより、むしろ「自信を持って頑張れば必ず成功するよ」みたいな、精神的なサポートが中心になってきます。実際、いまの私はそれしかできないし、またそれでいいのだと思っています。

 私の移住相談は、相談者の精神的なサポートに最初から最後までコミットできるか?「できる!!」・・・実際これこそが、Manachan's Worldがこの世に存在する、唯一の意義だと思っています。精神的なサポートを通じて、相談者の「生きる力」を引き出し、結果的には日系移住者の社会的・経済的地位の向上、リッチでパワフルでエキサイティングな日系コミュニティづくりに、微力ながら貢献していきたいと思っています。


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