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シドニー日記・移住決行編第4回 (2000年4月14日)

パラサイト・シングル・ライフ  

 

 まさか30過ぎて実家で居候するとは思わなかった・・・

 第一回の日記でも書きましたが、私はすでに自分のマンションを引き払ってしまったので、オーストラリアに移住するまでの間は実家に戻り、両親、妹、弟とともに住むことになりました。実家での生活は家賃ゼロ、三食昼寝付き、家事負担ほとんど無しの三拍子揃い、まるで天国のようです。世の中には社会人になって長年経つのに結婚せず、実家でぬくぬくと暮らしている20代、30代のお兄さんお姉さん方が大勢いるらしく、彼らは「パラサイト・シングル」(パラサイト:寄生するの意)と呼ばれています。私の今の状態もまさにパラサイト・シングルそのものです(厳密に言えば、私の場合法律上結婚しているのでシングルではありませんが)。

 パラサイトと言うとなんだか寄生虫みたいであまり響きはよくありませんが、実際日本のパラサイト・シングルは社会の中で一番経済的に恵まれた層なのかもしれません。第一、可処分所得が親世代や同世代の賃貸族とは比べ物にならないくらい高い。中高年サラリーマンの平均小遣いが5万から6万とかいう世知辛い世の中にあって、パラサイト族の場合は家賃や食費など生活費はほとんどかからないので、結局給料手取り分のほとんどは自由に使ったり、貯蓄にまわしたりできます。一方、同世代の賃貸族の場合は東京近辺の場合手取りの3分の1近くは家賃に消えてしまうのが相場だし、外食も多くなるので生きているだけで手取りの半分は消えてしまいます。そうした賃貸族でも苦しいながらちゃんと生活できるのだから、パラサイト族の生活の優雅さは推して知るべしでしょう。

 また、今日のパラサイト・シングルは社会から迫害されているわけではありません。ひと昔前の親だったら娘や息子がいつまでも結婚しないで実家で居候しているのを見れば、隣近所からうわさされるとか世間体が悪くなるとか言って追い出そうとしたでしょう。でも今や晩婚が当たり前の世の中、世間体を気にして子供との同居を拒むような親はほとんどいません。こうしたものわかりの良い親たちに見守られて、しかも稼いだ金も自由にできるとなれば、パラサイトたちはわざわざ苦労の多い結婚生活や金のかかる賃貸生活など選ばず、いつまでも親元を離れようとしないのが人情でしょう。

 こうしたパラサイト族の助長に関して、日本国内ではさまざまな議論が行われています。面白いことに、この国では議論の矛先は専らパラサイト女性に向けられることが多いようです。つまり、男性の晩婚化には無関心だが、女性の晩婚化の方は社会の大問題としてとらえている向きが多いのでしょう。例えばガチガチの保守系の人ならこう言うでしょう。「女がいくつになっても嫁に行かず、親のすねをかじっているのは由々しきことだ。最近日本の出生率が下がっているのはこういう輩が多いからで、ゆくゆくは日本の家庭の崩壊、ひいては国の崩壊につながる」。でも現代のパラサイト女性たちは彼らの言うような伝統的な母親に回帰する気は毛頭ないでしょう。またフェミニストならこう言うでしょう。「女性の晩婚化は、男性中心社会に対する無言の反乱である。伝統的な家庭では女性は家事育児に追われキャリアアップも自立もできない、こうした旧い家庭像、母親像に若い女性は異議を申し立てているのだ」。でもパラサイト女性たちはフェミニストが理想とするような自立した女性になることにも躊躇しているようです。

 こうした大人なのか子供なのかよく分からないパラサイトたちがちやほやされる理由の一つは日本経済の長期低迷にあるようです。例えば、景気回復を至上課題と見るエコノミストはこう言う「長期低迷を続ける日本経済にとって、パラサイト族の存在は福音である。今後消費を拡大していく担い手として、リストラで萎縮している中高年層には全く期待できない。むしろ可処分所得の多い、新しいトレンドに敏感なパラサイト族(特に女性)は、今後の日本の消費の牽引車として大いに期待できる」。確かにその通りで、iモード、インターネット関連、ブランド品など日本の新しい消費トレンドはパラサイト族の男女によって担われているのは明らかで、日本の景気回復はひとえに彼らの双肩にかかっていると言っても過言ではありません。パラサイト・シングルはまさに高度消費社会の産物なのでしょう。

 パラサイト・シングルは日本だけにみられる現象ではなく、先進国全体に広まっているようです。例えば西ヨーロッパでは「ホテルファミリー」(食事・洗濯を全部してもらって、まるでホテルにいるような待遇を受けられる)とか「カンガルー族」(カンガルーの子供のようにいつまでも親の元を離れない)と呼ばれるパラサイト男女が大量に出現しているようです。そしてこの現象は貧しい家庭よりもむしろ豊かな都市中産階級の間で特に顕著なようです。

 何はともあれ、私にとっては本当に過ごしやすい世の中ですね。30過ぎて無収入でも「いつでも帰ってきていいよ」と言う限りなく優しい両親、いい年をした男がパラサイトしていても何とも言わない隣近所や世間、大量のパラサイトを養って余りある日本経済の底力、これらすべてに感謝感激しなくちゃ、バチが当たりますよね。

 

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